「総合型選抜」はもはや傍流ではありません
2026年度の大学入試をめぐって、大きな転換点を示すデータが発表されました。国公立大学において、総合型選抜の実施規模が「過去最多」を記録したのです。
文部科学省の集計をもとにした各メディアの分析によれば、2026年度入試で総合型選抜を実施した学部の割合は、国立大学で全学部のうち93.3%、公立大学でも84.4%にのぼり、いずれも過去最多となりました。「総合型選抜は私立の入試方式」というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、その認識はもはや過去のものになりつつあります。(朝日新聞 Think Campus)
私たち「未来図」では、推薦入試の最新動向をお伝えしてきましたが、今回はこの「国公立大の総合型選抜過去最多」というニュースを踏まえ、読者の皆さんが最も気になるであろう「旧帝大7校」の総合型選抜・学校推薦型選抜の実態を、北から順に整理してお伝えします。
東京大学・京都大学はもちろん、北海道大学・東北大学・名古屋大学・大阪大学・九州大学。それぞれの旧帝大が、どのような考え方で、どのような選抜を行っているのか。志望校の検討にお役立ていただければ幸いです。
北海道大学——「フロンティア入試」というユニークな名称
北海道大学では、総合型選抜を「フロンティア入試」という独自の名称で実施しています。「フロンティアスピリット(開拓精神)」という北大の建学の精神を体現するネーミングといえます。
実施しているのは、理学部・工学部・歯学部・医学部・水産学部の一部の理系学部・学科のみです。文系学部では総合型選抜を行っていないという点は、他の旧帝大と比較しても特徴的です。
フロンティア入試は大きくTypeⅠとTypeⅡに分かれます。
- TypeⅠ:大学入学共通テストを課す方式。医学部医学科、歯学部、水産学部、工学部の一部、医学部保健学科など。課題論文や面接が組み合わされます。
- TypeⅡ:適性試験と面接が中心の方式。理学部の数学科・物理学科・化学科・生物科学科、工学部の応用物理工学コース、機械知能工学科などで実施されます。
北大のフロンティア入試で特に重要なのは「自己推薦書」です。志望分野への専門的な関心、学内外での活動記録、外国語能力などを通じて、大学が「求める学生像」にいかに近いかをアピールする書類です。
また、北大は求める人材がいなければ合格者を出さない年度もあります。東大も推薦入試で定員数100人に対して100人の合格を出しませんが、北大も同様で、学力だけでは測れない適性を徹底的に重視する姿勢が読み取れます。
東北大学——旧帝大随一の「AO入試先進校」
総合型選抜について語るうえで、東北大学は外せません。東北大は日本の国立大学の中でも特に早くからAO入試(総合型選抜入試)に力を入れてきた大学で、現在では学部入学者の3割以上がAO入試・総合型選抜入試経由ともいわれています。かなり先にはなりますが、2050年には一般入試を廃止する、とも公表しています。
東北大は「国際卓越研究大学」にも認定されており、推薦入試を「求める学生を選抜するための中核的な入試制度」と位置づけています。単なる推薦入試の代替ではなく、本気の選抜です。
東北大の推薦入試はⅡ期とⅢ期に分かれます。ちなみにI期はありません。過去に行われていた入試をI期としているとのことです。
AO入試Ⅱ期
- 時期:11月頃
- 対象:原則として現役生のみ
- 共通テスト:課されない(学部独自の筆記試験あり)
- 選考の3本柱:書類(志望理由書・活動報告書)/学科ごとの独自筆記試験(英語・数学・理科など)/探究分野を深掘りする面接
- 特徴:評定平均4.3以上など、高い成績基準が課される学部も
AO入試Ⅲ期
- 時期:2月頃
- 対象:浪人生や社会人も受験可(医学部は現役生と1浪まで)
- 共通テスト:必須。高得点が強く求められる
- 選考の4本柱:共通テスト/書類/小論文/面接(プレゼンや口頭試問を含む場合あり)
推薦入試といえど、普通に学力の試験も課されます。東北大が評価する3つの力は「探究力・国際性・主体性」。一般入試と同等以上の学力を前提に、これらを総合的に評価する本格的な選抜です。
東京大学——「学校推薦型選抜」一本で、極めて高いハードル
東京大学は、いわゆる「総合型選抜」ではなく、「学校推薦型選抜」という形で推薦入試を実施しています。そのため、学校長の許可が必要となります。
選考プロセスは以下の通りです。
- 10月:出願・書類選考
- 12月初旬:一次試験合格発表、面接
- 1月:大学入学共通テスト受験
- これらを総合的に判断して合否決定
東大推薦の最大の特徴は、一般選抜との併願が可能な点です。国公立志望かつ推薦資格を満たす受験生にとっては、合格チャンスを大きく広げられる選抜方式といえます。
各学部の出願要件は、いずれも極めて厳しいものです。
- 法学部:第3学年第1学期に履修した全教科で学年上位5%以内
- 経済学部:英語、数学、地理歴史・公民のいずれかで学校内で上位10%
- 医学部医学科:各種コンテストでの顕著な成績や、TOEFL iBT 100点以上などの高い英語力を示す資料が必要
文学部では小論文、法学部ではグループディスカッション、教育学部ではプレゼンテーション、というように、学部ごとに異なる選考方法が設けられているのも東大推薦の特徴です。コンテスト実績、論文、語学スコア、国際通用性のある資格など、客観的に「秀でた実績」を示す資料が求められます。
京都大学——「特色入試」全学部全学科で実施
京都大学は、「特色入試」という独自の名称で、総合型選抜・学校推薦型選抜を全学部全学科で実施しています。「高大接続型」とも呼ばれ、高校での基礎学力・知識に加え、志望学部への適合力が重視されます。
京大の特色入試は、学部ごとに総合型選抜と学校推薦型選抜が使い分けられているのが特徴です。
学部 | 区分 |
医学部医学科 | 学校推薦型選抜 |
医学部人間健康科学科 | 総合型選抜 |
総合人間学部・文学部・教育学部 | 総合型選抜 |
法学部 | 特色入試(共通テスト出願、実質後期日程) |
経済学部 | 学校推薦型選抜 |
理学部 | 総合型選抜(数理科学入試・生物科学入試) |
薬学部薬学科 | 総合型選抜 |
工学部の各学科 | 学校推薦型選抜 |
農学部の各学科 | 総合型選抜・特色入試 |
選抜方法は、10〜11月の書類選考の後、口頭試問・小論文試験・論文試験・能力測定考査など二次試験が課されます。医学部医学科を除いて、大学入学共通テストの結果提出が必須である点も、京大特色入試の重要なポイントです。
「自由の学風」を掲げる京大らしく、多様な価値観と意欲・主体性を持って研究を進められる学生を求めています。
名古屋大学——「任意提出資料」が合否のカギ
名古屋大学では、学校推薦型選抜と総合型選抜の両方を実施しています。実施学部は、文学部・教育学部・法学部・経済学部・情報学部・理学部・医学部・工学部・農学部です。
名大の興味深い特徴は2点あります。
1. 評定平均の基準が原則として「ない」
文学部と医学部を除き、学校推薦型選抜であっても評定平均の基準が原則として設けられていません。高校の成績に縛られず、活動実績や学ぶ意欲で勝負できる点が大きな特徴です。
2. 「任意提出資料」が実質的な自己推薦書
名大では、学部関連の活動、外国語能力、IBスコア、留学経験、科学オリンピック入賞などに加え、SGH(スーパーグローバルハイスクール)やSSH(スーパーサイエンスハイスクール)での特筆すべき活動まで含めて、任意提出資料として提出できます。任意とはいえ、これが実質的な自己推薦書として合否のカギを握る重要書類となっています。
また、2025年度入試より、理学部で総合型選抜の実施が始まりました。化学科・生命理学科では共通テストを課さない方式(10月上旬)、数理学科・物理学科・地球惑星科学科では共通テストを課す方式(1月中旬)が用意されており、受験生の選択肢が広がっています。
大阪大学——「全11学部」で総合型・推薦型を実施
大阪大学は、設置されている全11学部すべてで総合型選抜または学校推薦型選抜のいずれかを実施しています。これは旧帝大の中でも非常に積極的な姿勢といえます。
文系学部(文学部・人間科学部・外国語学部・法学部・経済学部)と理学部は総合型選抜、医学部・歯学部・薬学部・工学部・基礎工学部は学校推薦型選抜という棲み分けです。
阪大の選抜プロセスは比較的明快で、以下のような流れになります。
- 一次選考:書類審査
- 二次選考:小論文、面接(または口頭試問)、大学入学共通テスト
ほぼ全ての入試形態で共通テストが必須となっており、二次試験の比重と合わせて、日頃からの基礎学力も欠かせない選抜です。
出願要件は学部によって個性が出ています。
- 医学部医学科:評定平均4.3以上
- 医学部保健学科:評定平均4.0以上
- 工学部:理数科目の評定要件や英語スコアの基準が具体的に明記
- 文学部・人間科学部:「卓越した活動」「高度な能力」を証明する書類提出が必須
具体的に評価される実績としては、英語資格(TOEFL・IELTS・英検)、各種科学コンテスト(JSEC、日本学生科学賞)、SGH・SSH・WWL関連の研究報告書、ボランティア活動、課題研究などが挙げられます。
九州大学——「ユニークな選考」が目立つ
九州大学は、薬学部と21世紀プログラムを除く全学部で総合型選抜を実施しています。実施学部は、共創学部・文学部・教育学部・法学部・経済学部・理学部・医学部(保健学科)・歯学部・工学部・芸術工学部・農学部です。
九大の選抜で特筆すべきは、学部ごとに非常に個性的な選考が行われている点です。
- 共創学部:高校内外での活動歴報告書を第一次選考で提出。第二次選考では、大学で行われる講義を受講したうえでレポート作成・集団討論・小論文・面接という、まさに「大学での学び」を疑似体験させるような選抜
- 芸術工学部:面接で楽器演奏などの創造的なパフォーマンスや、音響機器等の設計制作物の提示を行うなど、実技要素が強い選抜
- 工学部 電気情報工学科:実技や作品のプレゼンテーション
2026年度の変更点
九大は2026年度入試で、いくつか重要な変更を行っています。
- 共創学部:学校推薦型10名→15名、総合型20名→15名へ募集人員変更。また、これまで可能だった学校推薦型と総合型の併願が不可になりました
- 文学部 人文学科:学校推薦型選抜を新規実施(共通テストを課す選抜、10名)
文学部での学校推薦型新規実施は、まさに「国公立大の総合型・推薦型過去最多」というトレンドを象徴する動きといえます。
まとめ——旧帝大の総合型・推薦型は「7校7様」の時代へ
ここまで見てきた旧帝大7校の総合型選抜・学校推薦型選抜の概要を整理すると、次のようになります。
大学 | 主な名称 | 実施範囲 | 特徴 |
北海道大学 | フロンティア入試 | 理学・工学・歯学・医学・水産の一部 | TypeⅠ・TypeⅡの2方式。求める人材がいなければ合格者ゼロも |
東北大学 | AO入試Ⅱ期・Ⅲ期 | 多くの学部 | 入学者の約3割。Ⅱ期は共通テストなし・Ⅲ期は必須 |
東京大学 | 学校推薦型選抜 | ほぼ全学部 | 学年上位5〜10%等の厳しい要件。一般選抜と併願可 |
京都大学 | 特色入試 | 全学部全学科 | 高大接続型。総合型と推薦型を学部ごとに使い分け |
名古屋大学 | 総合型・学校推薦型 | 9学部 | 評定基準なしの学部が多い。任意提出資料がカギ |
大阪大学 | 総合型・学校推薦型 | 全11学部 | ほぼ全方式で共通テスト必須。要件が明確 |
九州大学 | 総合型・学校推薦型 | 薬学部以外ほぼ全て | 共創学部・芸術工学部などユニークな選考。2026年から文学部でも学校推薦型新設 |
旧帝大7校を見渡すと、「総合型選抜・学校推薦型選抜は、もはや一般選抜の補完ではなく、大学が本気で求める学生を選抜するための主要ルートになりつつある」ことが分かります。
東北大のように入学者の3割を超える規模で実施している大学もあれば、京大のように「特色入試」という独自の哲学のもとで全学部展開している大学もあります。北大のように「求める学生がいなければ採らない」という姿勢を貫く大学もあれば、九大のように毎年のように制度を改善している大学もあります。
「2026年度、国公立大の総合型選抜が過去最多」というニュースは、こうした個別の動きの積み重ねが集約された結果なのです。




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