2025年、旧帝国大学の一角である東北大学から衝撃的な発表がありました。「2050年を目標に一般入試を廃止し、総合型選抜の割合を100%に移行させる」。歴史と伝統のある国立大学だからこそ、一般入試を完全廃止するその斬新な姿勢には、賛否の声が集まりました。取材班がSNSを観察していた様子では、「推薦入試組のほうが優秀な人の割合が多かった」と好意的に受け止める声もあれば、「学力が担保されているのか」「日本が終わっていく」など、かなり反発が大きい部分もある様子。

 実際に、学校現場でも「推薦」の立場は芳しくありません。せっかくいち早く推薦入試で合格をつかみ取っても、先生から呼び出されて「お前が推薦で受かったことは誰にも言うな」と口止めされるのも珍しくない。推薦入試に対して「裏口」「ずるい」といった印象を持つ方が多いことが、一因でしょう。必死に勉強で頑張っているのに、「勉強もしないでらくらく受かっている」と見えているのかもしれません。

 ですが、本当に「推薦組」は「裏口でしか受からないような狡い弱者」なのでしょうか? 今回、取材班は、渦中の東北大学に推薦入試で合格した方々へインタビューを行いました。すると、「一般入試組」をも凌駕するようなバイタリティと聡明な頭脳の存在が見えてきた。不当に貶められがちな「推薦合格者」の実態に迫ります。

 今回お話を伺ったのは、こちらのお二人です。

「食生活から暮らしを変えたい」農学部Oさんのケース

 「私の推薦動機は生活習慣病予防です。もともと母がとても食事に気を遣っていて、PFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物の量と割合)や塩分量などを一食ごとに計測して、一日の摂取目安量を超えないようにしてくれていました。その影響なのか、私は食や健康に興味を持ちながら育ったんです。

 高校生になってから、探求学習を始めるとき、興味のある科目ごとにグループを作りました。私は家庭科と保健に興味がある人たちの班に入り、話し合った結果『生活習慣病予防』が研究テーマになったんです。修学旅行先でいろいろ食と健康に関する博物館に行ったり、本を読んだりして勉強して知見を深めるうちに、食材や栄養バランスについて考える機会が増え、やがてこれをもっと研究したいと考えるようになりました。」

 現在東北大学農学部に通うOさん(仮名)は、高校時代の課題研究を2年に渡って没頭した結果、幼少期から希望していた進路を大きくかえ、東北大学への合格を手に入れました。特別な課外活動なしで、週2で行われる学校の授業が、トップクラスの研究拠点へ導いたそう。

 医師である父の影響を受け、同じく医学の道を志したOさんですが、「医業を営む自分」の姿が想像できないギャップに苦しむようになっていきました。ちょうどその頃、課題研究で「生活習慣病」について探究を進めていたこともあり、幼い頃から食に関心があった自分にとっては、治療よりも、食を通じて病気を予防することに魅力を感じるようになったそう。東北大学農学部志望に方向転換し、食と健康を考える道へ進みます。元医学部志望なだけあり、模試でもA判定を連覇していたそう。そんな彼女が推薦受験を考えたのは「早く受験結果が決まるならば、それに越したことはない」と考えたためでした。

美味しくて健康になれる食材を求めて

 「現代人は忙しく、食事に十分な時間をかけられません。ついついコンビニや外食に頼りがちですが、それらの食事は栄養バランスに優れているとは言い難い部分もあり、どうしても塩分や脂質を摂りすぎてしまう。でも、おいしいものを食べる幸せは、誰もが享受してよいものでしょう。だから、手軽でありながら栄養バランスの整った次世代の食品を作りたいと思っています。」

 栄養バランス・食生活に気を遣う習慣はいつしか母から受け継がれ、彼女自身も「料理をするときは、一食あたり2グラムまでと基準を設けて、それを超えないように気を配っているんです」と教えてくれました。

  こともなげに語ってくれましたが、実際には一食あたり塩分2グラムはかなり難しい。国民的インスタント食品であるチキンラーメンは、たった一杯でなんと5.6グラム。一食で接種するべき塩分の2倍を超えています。


 おいしいものは、脂肪と糖でできている。美食の限りを尽くしたいけれど、明日ズボンのウエストが入らない自分になるのは怖い。糖尿病や痛風などの病にかかるのは、もっと怖い。だからこそ、おいしいものを食べたくても、我慢している人は多いのではないでしょうか。


 おいしいのに、健康でいられる。彼女の目指す食材や食べ物は、そんな夢をかなえてくれる希望の食材です。もしかしたら、いつの日か、「好きなだけ食べても、太らない」が当たり前の日々がやってくるのかもしれません。

そんな彼女の志望理由書はこちらです↓

 私は将来、疾病の予防に関わる機能を持つ食品成分について研究し、特に生活 習慣病の予防に役立つ食品を開発することで社会に貢献したいと考えている。

 生活習慣病の予防に関わる研究に興味を持ったきっかけは、2・3 年次に行っ た生活習慣病についての課題研究である。研究を通して、世界中で生活習慣病の 患者が増加していることや、生活習慣病の予防において特に食生活が重要だとい うことが分かった。そこから、もともと食品や健康に強い関心があった私は、生 活習慣病の予防の観点から、食品に含まれる成分や栄養素の機能を解析し、その 結果を応用することで、より多くの人がより簡単に生活習慣病の予防に取り組む ことができる健康的な社会づくりに貢献したいと考えるようになった。私はもともと医学部を志望しており、医療によって多くの人の命を救いたいと 考えていた。しかし課題研究を行った結果、人々が自ら予防に取り組むことが重 要であり、それを手助けできるような食品を開発したいと考えるようになった。

 この経験から、食品成分による生活習慣病の予防の研究において、他の分野と農学分野を関連付けることが重要であると考えている。そのため、医・歯・薬学と の融合による医農連携の体制が構築されている東北大学の農学部で、医学と農学 を関連させて学ぶことで、生活習慣病を予防する食品成分について研究したい。

 また、ただ研究を行うだけでなく、研究の成果を実社会において活用すること で人々の健康を促進することが必要であると考えている。東北大学の農学部で は、国内外の様々な領域の産業界との連携が盛んであり、私はそのような環境で、 国内外の社会への貢献を強く意識しながら、研究の成果を最大限に活用したい。 そのためには、研究の成果をもとにして企業などとともに生活習慣病の予防・改 善に関わる食品を開発することが重要である。企業と共同で研究・商品化を行う ことで、生活習慣病の予防を手助けする食品を普及させ、人々がより手軽に生活 習慣病の予防に取り組み、健康で長生きすることのできる社会を実現させたい。

 以上が貴学を志望する理由である。


「個人的な体験が世界とつながった」法学部Iさんのケース

 現在、東北大学法学部に通うIさんは「高校時代、部活動の中であった嫌な思い出が、今の私を突き動かす原動力になっている」と語ります。

「私の母校は、伝統ある男子校でしたが、近年共学になって女子生徒も受け入れるようになりました。共学化されたといえど、男子校時代から続く体育会系の部活も残っていて、とある運動部に入ったんです。以前は男性中心だったようですが、最近は女子部員も多く、私を含めた女性部員も活躍する姿がありました。私がこの部活に入った理由も、一つ上の女の先輩に憧れたからでした。初めて出会うタイプの魅力的な人で、一瞬で彼女の虜になり、入部を決めたんです。

 ですが、OBの方がいらっしゃるたび、
『やっぱり男の子のほうが映えるよね』とか『来年は、男の部員を増やさないとね』
といった言葉をかけられました。私の代は女性部員だけだったため、このような声かけをもらうことも多かったです。もちろん、先輩方に悪気がないのはわかっていますが、それがかえって率直な意見に聞こえて……。私たちの頑張っている思いが踏みにじられてしまったようで悔しかったです。」

 彼女の夢は、官僚になること。

女性の社会進出を後押しするような法律を作って、女性が活躍しやすい社会を作ることが目標なのだそう。今ではブラック体質と忌避されがちな官僚ですが、彼女は「ブラックかそうでないかは、あまり気にしたことがありません。残業時間が長いことが、官僚を目指さない理由にはなりません。」と答えました。その強い決意が湧き出すきっかけは、なんと学校の授業にあったそう。

学校の授業が推薦挑戦のきっかけに

「高校3年生の時に受けていた政治経済の授業で、『女性が就きたい職業に就けない』とか『女性が管理職になれないケースがある』など、様々な女性の社会進出に関する社会問題を知りました。そこで、『女性だから』が理由となって、不当な扱いを受けることが、私だけの問題じゃないって気付いたんです。
部活動で感じた自分の事情と、世界の事情が重なって、問題に普遍性が見えました。
だからこそ、これは解決しなければいけないと感じたんです。」

 彼女は受験勉強と並行して、勉強の合間に図書館へ赴き、差別に関する本を読み漁るようになりました。やがて「アファーマティブアクション(積極的格差是正措置)」という考え方を知り、女性の社会進出に希望を見出すように。この制度を日本で法的効力を持たせながら導入するためには、立法に携わる官僚にならなければならないと考え、法学部へ進学を決意したそうです。

「一部企業や、アメリカの一部の州、北欧地域では『クオーター制』といって、一部の社会的不利益を被っている人々へ、一定の参加比率を割り当てる制度が導入されています。私は、日本の議会などにもこれを導入すべきだと考えています。法学部で学びを深め、女性の活躍できる社会を実現できるような仕事をこなすことが目標です」

 こう語る彼女は夢を見て、勉強から逃げていたわけではありません。
共通テストも863/1000点で、模試でもA判定を取得していたそうですから、学力的にも十分すぎる水準をキープしていたことがわかります。
そのうえで、受験勉強と並行しての探究活動を行い、勉強時間の合間に本を読み進めていたそうですから、そのバイタリティには目を瞠るものがあります。

そんな彼女の志望理由書はこちらです↓

 私は、貴学法学部が養成する、より良い日本の実現のために貢献する法政策ジェネラリストという人材に、とても魅力を感じた。そして、将来官僚になる夢を叶えるために、貴学法学部に入学したいと強く思うようになった。

 私が官僚になりたいと思うようになったのは、高校での部活動での経験が大きく関係している。私は、高校時代、100余年伝統を誇る応援団に所属していた。しかし、共学化より10年経った今でも、女性団員は男性団員とは異なる扱いを受けることが多かった。それは必ずしも悪意からくるものではなかったが、能力の問題だけではなく、単なる性別の違いだけで優劣を付けられてしまうことに、もどかしい思いをした。ある時、日本全体で未だに女性が性別の問題だけで、社会進出が阻まれることが多いことを知り、更にこの問題について深く考えるようになった。数字で見ても、日本のジェンダーギャップ指数は、2021年で0.663と先進国の中で最低レベルの数値である。日本の現状を知れば知るほど、女性が正しく能力を評価してもらえるための機会が欠けているこの状況を打開したいと強く思うようになった。私は、そのためには、よりアファーマティブ・アクションを取入れた法が必要だと思っている。そして、そのような法整備を自分事として考えられるのは、同じ経験をした女性だと思う。

 法整備は、女性軽視の根本的な解決にはならないかもしれない。しかし、社会に問題提起をするための一石を投じられるのではないだろうか。就職などの場において、女性が性別にとらわれず、未来を呼び込む未来を私は作りたい。

 私は、貴学の講義の中では、特に西洋政治思想史に興味がある。男女平等や日本より先行している西洋について、歴史的、思想的に学ぶことで、日本の男女格差是正のためのヒントを得ることができると思う。また、積極的に公共政策研究会などの自主ゼミに取り組み、学生のうちから実体験として司法に関わる機会を増やしたいと思っている。

 以上の理由により、私は貴学法学部を強く志願する。

まとめ

 多くの大学推薦入試が、受賞歴やボランティア、海外経験など、いわゆる「特別な活動」を重視する傾向にある中で、東北大学が注目するのは、日々の知的な探究心と、それを形にするバイタリティです。

 特別な課外活動や実績がなくても、学校の授業や探究活動から難関国立大学の推薦合格を勝ち取る。これはまさに推薦入試が目指す方向性そのものでしょう。


 彼女らが受験勉強の傍らで、それぞれの工夫した手段で、自らの問題意識を深めたように、 好奇心を原動力に自ら学びを進める姿勢こそが、合格の決め手だと考えられます。何かと色眼鏡で見られがちな「推薦入学者」ですが、彼らの活躍が広がっていけば、不当な低評価の偏見も消え去っていくのかもしれません。