「推薦入試の合格者は、全国大会入賞のような輝かしい記録を持っている」と思い込んでいませんか? もちろんそのような方も多い一方で、実際には、地道な学びや日々の探究心が評価されるケースもあります。
京都大学法学部の学校推薦型選抜(いわゆる推薦入試)は、わずか20名程度の狭き門。ですが、2025年度選抜に合格したOさんは、日常生活で培った探究心のみを武器に京都大学法学部に合格しました。普段の学びの大切さと推薦入試の本質を伺います。

幼少期から芽生えた“知りたがり”
彼女の家のルールは 「わからない言葉は、まず辞書で調べること」。リビングには図鑑や辞書が常備され、日常会話で出た言葉がわからなければ辞書で引くのが日常でした。おかげで小さなころからたくさんの活字に触れながら育ったそうです。
さらに、「なぜ?どうして?」と問いかけるOさんに対し、ご両親はただ答えを与えるのではなく、一緒に考えたり説明したりする時間を大切にしてくれました。大人と対話する過程で、自然と論理的な思考力や文章の組み立て方が自然と上達しました。たとえば会話の際には「誰が、何をしたのか」を意識し、常に主語と目的語の関係を明確にして話すよう注意されていたそうです。
こうした幼少期からの「調べる・考える習慣」こそが、後の探究心の原点になりました。
検察官への憧れから判例の世界へ
小学高学年の頃、Oさんの心を掴んだのが人気ドラマ『HERO』。木村拓哉さん演じる型破りな検察官の活躍ぶりに、「私もこの人たちみたいに、人々へ寄り添い、役立てる存在になりたい!」と感じたそう。検察官に興味を持ったOさんは、小学校卒業前には早くも「将来は検事になりたい」と周囲に語っていたとか。
中学生になると、その憧れはさらに発展します。ほとんど勉強をせずに挑んだ中学での初めてのテストでは6/180位を記録。その後も何回か学年1位を取り、自分が頭の良い部類であることを初めて自覚しました。頭がよくなければ目指すことができない「検察官」になれるかも!と現実感が湧き、将来の夢について考える授業では、もちろん「検察官」を調べたそう。
ドラマの中だけでなく、「実際に起きた事件がどう判決されてきたかを見たい!」と考え、事件の判決をまとめているサイトを見るように。やがて「公式の判決文を読んでみたい!」と判例集を手に取るようになりました。
「正直、中学生で判例集を読むなんて珍しいですよね」と照れ笑いするOさんですが、実際に読んでみるとこれが「驚くほど面白かった」と語ってくれました。特に彼女の胸に引っかかったテーマが「少年事件」でした。
少年法の存在意義に悩む
判例やニュースを通じて「少年事件」に触れたOさんは、中学生ながら大きな疑問に突き当たります。「どうして少年と大人とで法律の扱いが違うんだろう? 同じ殺人でも死刑にならないのはなぜ?」「罪を犯した少年に社会はどう向き合うべきか?」という問いです。
中でもOさんの記憶に1番残っている事件は「1997年神戸連続児童殺傷事件」。
「いわゆる『酒鬼薔薇事件』として有名ですが、自分と同い年くらいの子どもがこんなにも恐ろしい存在になることが衝撃でした。私の中の通り魔のイメージは、屈強な大人だったからです。中学校の校門に頭部を置くなんて、少年の所業とは思えなかったからこそ、なぜ凶行に至ったのか疑問が尽きませんでした。」
凶悪事件であっても、加害者が未成年なら実名報道されないなど、更生を重視した処遇がとられます。ニュースで報じられる少年犯罪の話題に接するたび、Oさんの中ではモヤモヤが募りました。「被害者もいるのに少年だからって許されるの? どうしてこんなに守られてるの?」という素朴な怒りと、「同じ年齢の自分なら絶対にやらないのに、なぜ犯行に及ぶのだろう?」という疑問——答えの出ないテーマに、ますます興味は膨らんでいきました。少年事件に関わらず、今まで読んできた判例の総数はなんと150個近く。このように好きな分野をとことん掘り下げる探究心は、中高を通じて一貫してOさんの中に息づいていました。そして高校生になると、さらに学びのフィールドは広がっていきます。
推薦入試への戸惑いと決意
高3の夏、部活を引退したOさんは本格的に進路と向き合いました。今まで、第一志望は九州大学でしたが、高3の夏に急転換が訪れます。
「旧帝大を勧められていましたが、キャンパスに魅力を感じられず、正直迷っていました。そんな時、京大の先生に『少年事件の厳罰化についてどう思うか』と疑問をぶつけたら、すごく腑に落ちる回答が返って来て、京大で学びたい気持ちが湧いてきたんです。」
急遽京大志望に変更しての受験生活。多忙を極める中、学校の先生から「学校推薦型選抜」を薦められました。とはいえ当初は戸惑いがあったと言います。
「正直、自分には無縁だと思っていました。目立った表彰歴もないし……」
推薦入試というと、オリンピック出場や全国コンテスト優勝者など、華々しい経歴が当たり前。
一方の彼女は、週6で吹奏楽部の練習、残りの1日はオーケストラの練習と、部活を引退する高3の9月まで校内活動に取り組み続け、課外活動の経験がゼロでした。いわゆる「普通の学生生活」に全力で取り組んでいた彼女には、特別さを強調するエピソードがなかったのです。
実際に、受かった先輩方も輝かしい経歴を持っていたからこそ、自分には無理だと諦めていたそうです。
ただ、一般入試の勉強が間に合っているならば、推薦入試出願はローリスクハイリターンの選択肢となります。当時の彼女は既に模試でB判定をたたき出すなど、客観的に見て一般受験の準備はそこまで遅れてはいなかった。担任からも背中を押され「受験のチャンスが増えるなら」と、重い腰をあげます。急遽、推薦入試対策に追われる日々が始まりました。
推薦入試の準備でまず取り組んだのは、志望理由書(自己アピール書類)です。
Oさんは自分の興味関心や高校までの歩みを整理し、京都大学で学びたいことを言語化していきました。小説が大好きだったためか、詩的な言い回しになりがちだったのを、何度も書き直し、国語の先生へ添削を依頼。
「自分の言葉で思いを伝えることを意識して推敲を重ねました。判例好きが伝わるよう、具体的なエピソードも入れ込みましたね」と振り返ります。
彼女が書いた志望理由書はこちら↓
私は将来、検察官になって、社会秩序を維持するために尽力したいと考えている。検察官という仕事に興味を持ったきっかけは、検察官が登場するドラマを見たことだ。難題に直面した時に、柔軟な考え方で広い視野を持って物事の解決にあたることができる検察官になるために、私は大学で多角的な思考を身に付け、正解がない問題に対して様々なアプローチができるようになりたいと思う。貴学を志望したきっかけは、東筑高校主催の研修で、貴学の先生方との質疑応答の場に参加したことだ。印象的だったのは、「少年犯罪」についてである。小学生で検察官に興味を持ち、裁判への関心が高まり、インターネットで判例集を見るのが趣味になった。様々な事件に対してどのような判決が下ったのか、なぜそういう判断をしたのかを知ることができるのが面白かった。その中でも自分と同じくらいの年の子供が起こした少年事件への関心が高かった。高校一年生の時にある小説を読んでから、少年犯罪について考えることがさらに多くなった。そこで私は「少年法は厳罰化すべきか否か」という質問をした。その答えとして二択のどちらかで回答が返ってくると思っていたが、そうではなかった。先生の話によると、厳罰化すべきかどうかではなく、事件が発生しないようにする方法を考えるのが大切であり、少年事件を起こす子どもが抱えている家庭的な問題の解決などに力を注ぐのが重要であることがわかった。私はこの答えを受けて、先生は問題を根本から見つめておられるのだと感じ、衝撃を受けた。また、私はずっと法学という学問は真実を追求するものだと思っていた。しかしそもそも真実とは主観的なものであり、例えば被疑者にとっての真実と被害者にとっての真実は全く同じではない。法学部で学ぶということは、真実や正義を追求することではなく、多くの人が納得する理屈を探すことである。この話を聞き、私の法学に対しての考え方が一瞬にして変わった。そして、私は貴学の教授陣の下で学びたいと強く思うようになった。また、将来の目標を達成するためには、幅広い知識を身に付けることが必要なので、専門分野のみならず、関心のあるその他の分野も学びたいと考える。貴学の特徴である自由な校風は、数多くある学問分野から自分の興味のある講義を主体的に選択し、幅広い知識を身に付けるのに最適であると考える。さらに、法曹界へ数多くの人材を輩出していることや、全国から集まった多様な志・価値観を持った人たちと交流し、自身の見識を深められることも大きな魅力の一つである。
大学在学中は、世界で活躍できる人物になるために貴学の留学制度などを利用し英語力の養成を図り、高度なコミュニケーション能力を獲得したい。また、海外に身を置くことで、現在の日本のありよう、問題点などを客観的に見つめるとともに、世界情勢を把握し、世界における諸課題を自分ごととして捉えることができるようになりたいと考える。そして、幅広い視野を身に付けるために、様々な講義を選択して政治学と法学を広く学ぶことはもちろん、心理学や人間行動学についても勉強したい。さらに、貴学の法科大学院と連携した五年間の法曹基礎プログラムや実務選択科目を積極的に受講し、検察官になるための実践的な力をつけていきたい。
大学卒業後は海外留学で培った問題意識やコミュニケーション能力を発揮し、検察官として諸事件の解決を目指し秩序を維持するのと同時に、死刑制度の是非や少年法の改定、被害者支援制度など正解のない問題に対して柔軟さをもってあらゆる角度から考察を加え、よりよい社会の実現に尽力したいと思う。
京大の推薦は一次が英語の小論文のテスト、二次が10教科の共通テストの点数で決まります。
共通テスト前に行われる小論文は大問2題。
①400字程度で英語の問題文の内容を日本語で要約
②1000字程度で自分の意見をまとめて書く
法学部学校型選抜が初年度だったこともあり、小論文はサンプル問題しかない状態。サンプル問題を一度解いてみて「文章を書く力はそこそこある」「でも英語に慣れる必要がある」と判断。学校の小論文対策に申し込むのを忘れていましたが、大して障害にはならず、京大の赤本の英語長文を10年分解くなどして、自習のみで対策されました。
一方で共通テスト対策は学校で課される課題が中心。英国は特に対策せず、理社など暗記系の科目は最後に詰め込んで、ほとんどは数学対策に腐心したそう。塾通いが選択肢に入りそうに思えますが、課題量に苦しむ友達を見て、長時間勉強できない自分に塾は向いていないと判断。高3になっても基本は自習のみで、最後の冬季講習だけ数学の苦手を潰すために初めて通塾したそうです。
評価されたのは「日々の学びの積み重ね」
そして迎えた合格発表の日。緊張の中見た自分の受験番号——「合格」を知った瞬間、Oさんの目からはとめどなく涙があふれ出ました。
彼女が栄光をつかみ取れた秘訣は、やはり日々の積み重ね。
「京大の先生方は、肩書きより中身をちゃんと見てくれると感じました。だからこそ、自分も飾らず正直に伝えようと心がけました。」
幼少期からの読書習慣で培った語彙力・思考力、中高時代に積んだ判例読解の蓄積、それをアウトプットする表現力——派手さはなくとも、一歩ずつ積み上げてきたものが評価されたのです。もちろん部活や生徒会での経験も志望理由書や面接で語り、大いにアピール材料になったそう。
一見遠回りに思えるような読書や興味本位の調べ物も、彼女にとって大切な財産となり、京大合格への足掛かりとなりました。「周りに流されず、自分のペースでいいから探究心に忠実に動いてみてください。好きで続けてきたことは、絶対どこかで力になります」と力強く語るOさん。法曹界で活躍する彼女の姿を見る日も、そう遠くないのかもしれません。
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