「大学公認の宝くじで草」。

 Xでそんな話題になったのは、北海道大学の新しい奨学金制度です。

 話題の中心にあるのは、JIG-SAW×北海道大学 奨学金です。もちろん正式には宝くじではなく、返済不要の給付型奨学金です。しかし、100万円を一括給付し、しかも抽選要素を含む仕組みを打ち出したことで、従来の奨学金のイメージを大きくはみ出しました。他の国公立大学にも企業名を冠した奨学金はありますが、北大の制度はその中でもかなりユニークです。

 「北大主催の100万宝くじか!?」といった反応が広がり、「まずこの企画が面白いので、この企画を考えた人に100万円を渡すのが良い」といった声まで出た北海道大学の新しい奨学金制度。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんもXで、この制度が「公認のゼロ円宝くじ」と評判だと紹介しました。

「成績」や「家計」だけではなく、「挑戦したい気持ち」にお金を出す制度

  この奨学金は、北海道大学の学部生・大学院生を対象にした給付型奨学金です。給付額は100万円を一括支給、返済不要、使い道は自由。対象となるのは、学術、研究、文化、芸術、スポーツ、ボランティア、学外活動など、学生生活における幅広い「挑戦」です。部活やゼミなど公認団体の通常活動、すでに外部助成を受けている活動などは対象外ですが、かなり自由度の高い制度設計になっています。北海道大学はこれを、自ら「フロンティア精神」を体現し、新たな挑戦で未来への道を切り拓く学生を支援するプロジェクトだと位置づけています。

 ここで目を引くのが、選考の仕組みです。募集要項では、応募者多数の場合は抽選で選考会イベント参加者を決定し、その後、選考会参加者の中から奨学金受給者4人を選ぶとされています。JIG-SAW側のメッセージでも、「皆さまの挑戦を公平に支援するため、奨学金の給付者は抽選形式にて決定いたします」と説明されています。これが「公認宝くじ」と呼ばれる最大の理由です。もちろん法的な意味での宝くじではありませんが、学力偏重でも家計基準一本でもない、広くチャンスを開く設計が、そうしたイメージを生んでいます。

JIG-SAW株式会社とは?

 資金を出しているJIG-SAW株式会社は、札幌拠点を持つIT上場企業です

 この制度の資金を拠出しているのは、JIG-SAW株式会社です。同社はIoT、クラウド、AIデータなどの制御サービスを手がけるテクノロジー企業で、札幌に複数の拠点を持っています。公式発表では、北海道・札幌を重要な事業拠点の一つと位置づけ、地域社会への貢献と新卒採用の強化を進めるとしています。つまりこの奨学金は、企業の社会貢献であると同時に、地域大学との関係づくりや将来の人材との接点形成という意味も持っています。大学と企業が、寄付や就職説明会だけではなく、「学生の挑戦に資金を出す」という形でつながる、今どきの産学連携の一例と言えそうです。

 北海道大学側もまた、JIG-SAWの「先進的な技術力」と「挑戦を尊重する企業姿勢」が、自分たちの育成したい人物像と共鳴すると説明しています。ここでは、奨学金は単なる家計支援ではありません。大学がどんな学生を応援したいのか、企業がどんな若者と関わりたいのか、その価値観が見える制度になっています。

他の国公立大学にも似た奨学金は

 北大ほど「抽選」と「用途自由」を前面に出した例はかなり珍しいですが、他の国公立大学にも似た奨学金があります。

 たとえば九州大学には、株式会社ヤマウの寄附を原資とする「ヤマウ奨学金」があり、工学系の学生に年額85万円を給付しています。埼玉大学には大栄不動産株式会社による「大栄不動産奨学金」、愛媛大学には企業寄附を原資とした「太陽石油奨学金」があります。いずれも返済不要の給付型ですが、選考は書類、面接、成績、家計、論文などを用いた比較的オーソドックスなものです。 つまり、「企業がお金を出す大学奨学金」自体は珍しくはないのです。

 とはいえ、この北海道大学の事例の面白さはそのお金の出し方です。多くの大学では、分野、学年、成績、家計、人物評価などをきっちり組み合わせて支援対象を定めています。これに対して北海道大学の制度は、「まだ形になっていない挑戦」や「とりあえずやってみたい気持ち」に、100万円という大きなお金を付ける。その意味で、かなりポップで、かなり攻めた奨学金だと言えるでしょう。

大学・制度

給付額

対象

選考方法

資金の出し手

北海道大学 JIG-SAW×北海道大学奨学金

100万円

学部・大学院の正規課程学生。新たな挑戦への意欲がある者

応募多数なら抽選で選考会参加者決定、その後イベントで4人選抜

JIG-SAW株式会社

九州大学 ヤマウ奨学金

年額85万円

工学系の学部2〜4年、修士1年

書類選考+支援企業面接

株式会社ヤマウ

埼玉大学 大栄不動産奨学金

年20万円

教養・経済・理・工学部の2年次生

書類選考+オンライン面接

大栄不動産株式会社

愛媛大学 太陽石油奨学金

50万円

学部3年次等、大学院1年次等。経済的支援が必要な学生

経済状況・成績・論文を総合判断

太陽石油株式会社

 この表で見てみると、北海道大学の制度が金額の大きさだけでなく、評価軸のゆるやかさと抽選性においても際立っていると言えますね。他大学の制度が「この分野の学生」「この学年」「この条件に合う人」を比較的明確に絞り込んでいるのに対し、北大の制度は「何かやってみたい人」に大きく開かれています。少し言い換えれば、他大学が“選ばれた人を支える奨学金”だとすれば、北大は“挑戦したい人に賭ける奨学金”です。

まとめ

 北海道大学の制度がこれだけ話題になったのは、単に変わった奨学金だからではありません。大学が「どんな学生を応援したいのか」、企業が「どんな若者とつながりたいのか」を、かなり分かりやすく見せているからです。北大はこれを「フロンティア精神」と結びつけ、JIG-SAWは「人と異なることを恐れない挑戦」を後押ししたいと語っています。奨学金は学費支援の制度であると同時に、大学と社会の価値観を映す装置でもあります。だからこそ、この“公認宝くじ”騒動は、少し変わったネット話題というだけではなく、大学と企業の新しい関係を象徴する出来事として読むことができます。