学校の勉強って役に立たないと感じたことはありませんか? 

 二次関数や方程式や英語で出てくる○○構文、古典の和歌の読み方……こんなこと、社会に出てから使っている大人を見たことないからこそ、出てきた学生時代の本音。ですが、大人は「学校の勉強をしないと社会に出られない」と知っているからこそ、教育を施します。

 昨今では教育熱が過熱し、受験のための受験のための塾……と遡り、幼稚園から受験に励む家庭もあるとか。心の底から「この勉強が将来の役に立つ」と信じる大人が、どれほどいるでしょうか。

 素朴な興味関心を突き詰める。本来はこれにこそ、大学以降の人生を広げるようなヒントがあるはずです。今回お話を伺うのは、2025年度AO入試Ⅲ期で合格した、東北大学工学部材料学総合学科1年のKさん(仮名)。彼の話から見えてきたのは、「学力だけでは測れない情熱や探究心を、推薦入試は正当に評価している」という事実でした。「ペーパーテストだけ」では測れない、次世代の才能のルーツに迫ります。

__大学はなぜ東北大学を選ばれたのですか。

Kさん:私は福島出身なので、東北大学についてよく聞いていました。中学生の頃にはもう東北大に行きたいという気持ちがはっきりしていたんです。

さらに、自分の興味を結びつけて考えると、材料学の分野では東北大学は日本一と言っても過言ではない環境が整っていました。だから自然と第一志望になったんです。

高校時代には、母校に東北大学の教授が出張講義に来てくださって、材料学総合学科の先生からさまざまな材料の話を聞きました。そのとき『材料ってこんなに奥深いんだ』と実感し、ますます東北大で学びたいという気持ちが強まりました。

__志望理由にはどのようなことを書かれましたか。

Kさん:私はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)について書きました。テニスラケットや自転車のフレームにも使われる、軽くて強い複合材料です。

東北大学工学部の材料科学総合学科は金属研究が強いので、多くの人は金属関連について書くんです。だからCFRPを書いたら先生からは「ちょっと変わってるね」と言われました。

でも、自分が一番惹かれていたのはCFRPだったので迷いはありませんでした。そのおかげで、どの研究室に行きたいかも自然に決まり、志望理由書もむしろ書きやすかったです。

面接では『なぜこの材料なのか』『この材料で何をしたいのか』といったシンプルな質問が中心でした。私は『複合材料は可能性のある分野で、材料そのものに新しい機能を持たせる研究が盛んに行われています。自分もその発展に携わりたい』と答えました。

__CFRPはいつ頃知ったのですか。

Kさん:中学生の頃です。

小さい頃から車や飛行機が大好きで、幼稚園の誕生日にはトミカの高速道路セットを買ってもらったり、親に新幹線の駅に連れて行ってもらったりしていました。小学生の頃には子ども向けではなく鉄道マニア向けの図鑑を読んでたりしていました。

で、中学生の頃に新型コロナの影響で時間がたくさんあったとき、YouTubeでF1スーパーGTの過去レースを観るようになりました。レース時間は短いもので1〜2時間、長いと6時間以上。観ているうちにすっかりハマってしまったんです。

特に応援しているのは山本尚貴選手。スーパーGTでのチーム国光の堅実な走り方が好きで、2016年の最終戦ではガソリンがギリギリなのに「2位で終わるのはもったいない」と勝負に出て、見事1位を取ったんです。ゴール直後にマシンが止まってしまったんですが、その“レーシングスピリット”に強く感動しました。

そこから『この車のボディは何でできているんだろう?』と調べるようになり、レーシングマシンの外装の多くがCFRPだと知りました。黒いカーボン模様がかっこいいし、ペイントの下には剥き出しのカーボンがある。空気の流れをよくする複雑な曲線や立体も、この素材だからこそ実現できる。それを知ってから一気にCFRPに惹かれていきました。この素材はレーシングカーだけではなく、航空機や自転車など広く用いられており、この研究に携われば、車だけではなく幅広い乗り物の研究ができると感じたことも決め手でした。

実は高校の入学祝いにカーボン製の自転車を買おうかと思ったこともあります。でもフレームがCFRPだと20万円以上して、さすがに親には頼めなかったですね。

__なぜ推薦入試を選ばれたのですか。

Kさん:もちろん一般入試でも受験するつもりで準備していました。ただ、母校が推薦入試を重視して指導していたので、自然と推薦対策にも力を入れることになったんです。

私は抜群に勉強ができるタイプではなく、模試も共通テストではA判定が出ることもあれば、記述模試ではC判定のこともありました。受けたのはAOⅢ期で、共通テスト・学科独自の英語試験・面接という流れです。一般より手順は少ない分、共通テストの比重が大きい入試でした。

中学生の頃から東北大を目指していたので、AOでは平均83%、その年は少し簡単で85%前後が必要になることを理解していました。だから早くから勉強を始めていました。推薦は共通テストの結果が出てすぐに出願なので、志望理由書は12月上旬には完成させて、国語と理系の先生に見てもらっていました。

__大学以降の進路はどのようなものを考えていますか?

Kさん:大学院に進むことはすでに決めています。修士課程まで進んだら、その後は一般企業に入りたいと考えています。

理由はいくつかあって、博士課程まで行くと大学に残る道がほぼ確定してしまいますよね。そうなると、研究自体は進んでも、一般の製品に普及するまでに時間がかかってしまう。私はむしろ、研究で得た知識や技術を社会に早く還元したいんです。

だからこそ、一般企業で材料やその設計・開発に携わりたい。材料をもっと研究して、その成果を応用し、より多くの人が手に取れるような製品に結びつけたいと思っています。

まとめ

 推薦入試は、決して「裏口」でも「楽な方法」でもありません。Kさんのように、共通テストで一定の学力を備えながら、幼少期からの情熱や探究心を研究へとつなげた学生を正しく評価する制度です

 「机に向かった勉強だけが全てだと思っていると、生き抜けない。」
 東北大学が打ち出した「総合型選抜100%への移行」は、そのメッセージを社会に投げかけています。従来の学力試験ではこぼれ落ちていた才能を拾い上げ、未来へつなげる推薦入試は、もう一つの正当な入り口なのです。