2026年9月20日、上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科の海外就学経験者(帰国生)入学試験が行われました。未来図編集部が独自に入手した入試問題の概要と、関連すると思われる社会問題、リザプロ株式会社推薦対策事業部が想定する回答の方向などをお伝えします!
問題概要
当日は、午前に90分間の学科試問、午後に個別面接が行われました。
学科試問では、2つの資料を照らし合わせて論じる形式が出題されました。1つは2026年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)におけるカナダのカーニー首相の演説、もう1つは「オリーブの木」などの象徴的な言葉を用いて国際社会の構造を論じた文章です。
設問では、冷戦後の「国家や民族のアイデンティティを確立しようとする国々」と「近代化のために標準化を進め、経済成長を遂げた国々」という対立構造から、「超大国が大きな力をもち、中堅国はそれに対抗するために経済成長を必要とする」という現在の構造へと、なぜ、どのように変化したのかを論じることが求められました。時事的な国際情勢への理解と、複数の資料を関連づけて国際秩序の変化を説明する構想力が問われたといえます。
用語解説:「社会的ジレンマ」とは
【レクサスとオリーブの木】
アメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンが1999年の著書で用いた比喩です。「レクサス」(トヨタの高級車)は、グローバル化による技術革新や市場の統合、経済成長を追い求める力を象徴しています。
一方の「オリーブの木」は、土地や民族、宗教、伝統など、人びとが自分のルーツやアイデンティティとして守ろうとするものを象徴しています。フリードマンは、冷戦後の世界をこの2つの力のせめぎ合いとして描きました。
【ミドルパワー(中堅国)】
アメリカや中国のような超大国ではないものの、一定の経済力や外交力をもつ国々のことです。カナダ、オーストラリア、韓国、そして日本なども含まれるとされます。
2026年1月のダボス会議でカナダのカーニー首相は、ルールに基づく国際秩序が揺らぎ、大国が力で自国の利益を押し通す時代に入ったと指摘したうえで、中堅国どうしが結束して行動すべきだと訴え、大きな注目を集めました。
関連すると思われる社会問題
この試験内容から読み取れる関連社会問題として、「大国間競争の激化」と「経済の武器化」が挙げられます。冷戦後しばらくは、経済的な相互依存が深まれば国家どうしの争いは減るという見方が広く共有されていました。
しかし現在では、米中対立の激化、ロシアによるウクライナ侵攻、関税や輸出規制を外交の圧力として用いる動きなどにより、経済そのものが国家間の力の争いの手段となっています。
また、グローバル化によって経済成長が進んだ一方、その恩恵を受けられなかった人びとの不満が、ナショナリズムやポピュリズムの台頭につながっていることも見逃せません。
つまり、かつて別々のものとして語られていた「レクサス(経済)」と「オリーブの木(アイデンティティ)」が、いまや国家の生存戦略として結びついているのです。総合グローバル学科の受験生としては、日本自身もまた中堅国として、どの国とどのように連携していくのかという視点をもつことが重要です。
理想回答の一例
① テーマ理解
冷戦後の世界では、アイデンティティの追求と経済成長の追求が異なる国家の選択肢として並立していた。しかし現在では、国際秩序を支えていたルールの力が弱まり、経済力が国家の安全と発言力を左右する時代へと変化している。
② 内容展開の方向性
A. 冷戦後の構造を「オリーブの木」と「レクサス」の対比で整理し、当時は経済的な相互依存が平和をもたらすと期待されていたことを示す。
B. 構造変化の要因として、①中国の台頭と米中対立、②経済的な相互依存の「武器化」、③国連やWTOなど国際機関の機能不全、④グローバル化への反発とナショナリズムの高まり、などを挙げる。
C. カーニー首相の演説を引用し、大国がルールを無視して力を行使する時代において、中堅国が経済力を高め、互いに連携する必要が生じたことを説明する。
D. 日本の立場に引きつけ、中堅国としての連携のあり方に言及する。
③ 構成例
序論:冷戦後の国際社会は、民族や国家のアイデンティティを重視する国々と、標準化と経済成長を重視する国々との対比で理解されてきた。しかし現在、その構造は超大国と中堅国との関係へと大きく転換している。
本論:その背景には第一に、中国の台頭によって米中の大国間競争が激化したことがある。第二に、かつて平和をもたらすと考えられていた経済的な相互依存が、関税や輸出規制、資源の供給制限などを通じて、相手国に圧力をかける手段へと変わったことがある。第三に、大国自身がルールに基づく国際秩序を軽視するようになり、国際機関が紛争を抑える力を失ったことが挙げられる。
カーニー首相が演説で示したように、ルールが自国を守ってくれない時代には、中堅国は自らの経済力を高め、他の中堅国と結束することでしか大国に対抗できない。このとき、経済成長はもはや「レクサス」を求める選択肢の一つではなく、自国の「オリーブの木」、すなわち主権やアイデンティティを守るための条件となったのである。
結論:国際社会の構造変化は、経済とアイデンティティの対立から、両者が国家の生存戦略として結びつく時代への移行といえる。日本もまた中堅国の一員として、価値観を共有する国々とどのように連携するかが問われている。
面接について
・面接の形式:個別
・面接官の人数:2人
・面接時間:約10分
・実際にあった質問:
志望動機/(出願書類に記載した)内発的発展論やノンフォーマル教育を、研究にどのように活用したいか/(海外で関心をもった)子どもたちがどのような在留資格で滞在しているのか具体的に説明してほしい/このテーマに関連して読んだ本のタイトルを挙げてほしい/特定の研究者以外の本や論文も読んだか など
出願書類に書いた研究テーマや専門用語について、深い理解があるかどうかを確かめる質問が中心でした。たとえば「内発的発展論」(地域の人びとが自らの文化や資源をもとに主体的に発展をめざすという考え方)や「ノンフォーマル教育」(学校教育の枠外で行われる、地域活動や成人教育などの体系的な学び)といった用語を書類に用いる場合は、その意味だけでなく、自分の研究にどう生かすのかまで説明できる必要があります。
また、海外での経験をもとに移民問題に関心をもった受験生に対しては、その国の移民政策や、子どもたちの在留資格(ビザ)の種類など、事実関係を具体的に問う質問が投げかけられました。
帰国生入試では海外経験そのものが評価の柱となるだけに、その経験を裏づける正確な知識が求められるといえます。さらに、「どのような本や論文を読んだか」と参考文献を具体的に問われるケースもあったため、特定の一人の研究者に偏らず、幅広い文献に当たっておくことが大切です。
なお、当日は午前9時30分に集合し、ルール説明の後に90分間の学科試問が行われました。午後は13時10分ごろから面接が始まり、受験生は英検の面接会場のように教室の外の椅子に並んで、一人ずつ順番を待つ形式でした。
受験生からは「関連する単語の調べ学習を徹底したことが役立った」という声が寄せられており、ビザなど自分の研究テーマに関わる制度用語まで押さえておくことが、合格へのカギとなりそうです。
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