甲南大学・村嶋学長に聞く
神戸・岡本の高台に緑豊かなキャンパスを構える甲南大学。8学部15学科1学環を擁し、うち6学部1学環が岡本キャンパスに集まる。専門の違う学生が日常的に交わる「ミディアムサイズの総合大学」だ。2026年4月には理工学部が4学科体制へと生まれ変わり、フロンティアサイエンス学部の教員として初めて学長に就いた村嶋学長のもとで、大学は新しい段階を迎えている。今回、未来図では村嶋学長と入試ご担当者にお話を伺った。
学部の壁を越えて交わり、「つながる力」が育つ
甲南大学の一学年の定員は1940人、学部在籍者は約8900人と、総合大学としてはコンパクトだ。その規模だからこその強みを、村嶋学長はまず「交わり」に見る。
「ひとつのキャンパスに複数の学部が集まっているので、他学部の学生との交流がとても多い。全学共通の教育の場でも、自分の専門とはまったく違う分野の人の考え方に触れられます。大きな大学では、そうした出会いはクラブくらいで、日頃の学びの中ではなかなか難しいものです」
異分野に触れる経験は、社会に出てこそ効いてくるという。「企業に入っても公務員になっても、まわりは違う分野の人ばかり。その中で意思疎通を図って仕事を進めるとき、いろんな考え方に触れてきた経験は本当に大きい」
甲南を特徴づけるのが、卒業生とのつながりの強さだ。「学長に就任して3か月ですが、同窓会などの集まりに行くと、学年の離れた人たちがものすごく仲が良い。こんなに愛校心の強い大学があるのかと改めて感じています」。学生時代の縁が卒業後も続き、OB・OGが今の学生を支える循環がある。

大学が掲げる「つなげる力・つながる力」は、学生自身の行動としても表れる。村嶋学長が挙げたのは、理系の博士後期課程の学生が自ら立ち上げた「異分野融合若手研究者の会」だ。「発案も運営も学生で、今年で4回目。他大学の学生にも自分たちで声をかけ、東京や広島など全国から100人近くが集まる。企業の方の参加も自分たちで手配してしまう」。学生が自発的に動き、その背中を見て後輩が続く。「ロールモデルになる学生がいることは、すごく大事です」
伸びしろは「やりたいこと」から。入学後に大きく伸びる学生について、村嶋学長には忘れられないエピソードがある。「1年前期の成績が下から2番目だった学生が、卒業時には首席になっていたんです」。きっかけは、行きたい研究室ができたこと。「その研究室に入るには成績を上げる必要があった。だから本当に熱心に勉強した。いつも大学に残り、わからないことはすぐ聞きに来る。やりたいことを見つけると、モチベーションはここまで上がるのかと」
それを支えるのが、教員との距離の近さだ。「教員や職員との距離が非常に近い。例えば私の所属する学部は少人数ですから、毎日のように先生と話す。その中で先生が自分の夢を語り、それを聞いて『自分もこうなりたい』と思う。目標になる存在に出会えるんです」
「進化型理系構想」と、文理を越える学び
2026年4月、理工学部は「環境・エネルギー工学科」の新設と2学科の改組により、環境・エネルギー工学科、宇宙理学・量子物理工学科、物質化学科、生物学科の4学科体制へ進化した。背景には社会の要請がある。「ミディアムサイズを維持する方針なので、理系を増やすぶんは文系学部から定員を移しました。都心部では私立文系があふれ、理系人材は足りていない。理系にシフトすることが社会の要請に応えることになると考えたんです」
新設の環境・エネルギー工学科は、国が今必要とするエネルギーや環境の課題に応える学科であり、もともと甲南に揃っていた電池・エネルギー関連の研究者が中心となって形づくられた。求める学生像も明快だ。「将来は大学院に進み、イノベーションを起こす人材になってほしい。研究は学問を極めればいいわけではなく、その成果をどう社会につなげるかが大事。新しい成果を社会に生かすことを考えられる学生に来てほしい」
有機化学を専門とし、医薬品や農薬の原料となる化合物の合成、アルツハイマー関連の研究にも取り組んできた村嶋学長自身、基礎研究を「将来どう使えるか」まで見据えて歩んできた。「甲南の理工学部はもともと理学部が母体で、理学系の思考が強かった。社会に生かすには工学の力も要る。工学を強めることも、進化型理系構想の目的のひとつです」。2027年には岡本キャンパスに新しい理系棟も誕生する予定だ。
理系の強化は文系にも刺激になる。甲南では文理を横断して学べる仕組みが整えられ、理系の素養の上に文系の学びを重ねる(あるいはその逆の)教育が実践されている。「AIやデータサイエンスは、もともと完全に理系の学問でした。でも今は誰もが使えて、身につけておくべきものになった。だからリベラルアーツの一部として全学部に開放しています」。甲南は旧制高校を母体とする私立大学の流れをくみ、開学以来リベラルアーツを大切にしてきた学園でもある。

入試で見るのは「多様な個性」
総合型選抜では、学力だけでは測れない部分を大切にしている。探究活動にどんな目的でどう取り組んだかを見る方式、これまでの頑張りやこれからやりたいことを面接・グループワークで評価する個性重視の方式、理系で女子学生を後押しする特別推薦方式など、複数のかたちが用意されている。
「点数だけで入ってきた人を集めるのではなく、クラブ活動を頑張った人、探究に打ち込んだ人——いろんな人が混じり合うことで、つながりが生まれ、能力が伸びていく」と村嶋学長。多様な学生が集うことそのものが甲南の狙いだ。
では、大学が評価する「個性」とは何か。「それは学部・学科、学環ごとのアドミッションポリシーに書かれています。これは、こういう学生に来てほしいという大学からの宣言。まずはそこをしっかり読み込んでほしい」。各学部等のサイトやフロンティア研究推進機構のページには、教員の研究紹介や、学生が教員にインタビューした記事も並ぶ。田畑の雑草をめぐる研究のように、意外な応用の広がりを持つユニークな研究も紹介されており、「推しの学び」を探す入り口になる。

神戸だからこそ
関西圏以外の高校生へのメッセージとして、村嶋学長がまず挙げたのは「生活のしやすさ」だった。「神戸からは大阪や京都にすぐ出られますし、岡山や広島、四国も新幹線を使えば近い」。実際、新神戸からなら岡山は1時間かからない距離で、新幹線通学をする学生もいるという。
そして神戸ならではの魅力が、国際色の豊かさだ。「京都の外国人は観光客が中心ですが、神戸は昔から定住して生活している方が多い。多文化に日常的に触れられるのは神戸の強みで、大学でも多文化共生教育やグローバルゾーンを大切にしています」。大きな国際系学部を持たない代わりに、グローバル教養学環(STAGE)のような小規模で特色ある学びを置き、どの学部にいても英語を集中的に学べるプログラムや、国際言語文化副専攻制度を設けている。甲南ではこれを「彩り教育」と呼ぶ。「学生が自分の志向に合わせて選び、なりたい将来像に向かって努力できる。それが甲南のいいところです」
緑に囲まれた岡本キャンパスでは、歩いていれば教員とすぐに顔を合わせる。学生と教員の距離の近さ、人と人とがつながる温かさは、村嶋学長自身の気さくな人柄にもにじんでいた。やりたいことを見つけた学生が大きく伸びていく——甲南大学は、そんな一人ひとりの成長を後押しする場所だ。
取材・文=落合 響(未来図編集部)/リザプロ株式会社




.png&w=3840&q=75)

.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)












