2026年9月19日、慶應義塾大学法学部政治学科のFIT入試A方式二次試験が行われました。未来図編集部が独自に入手した入試問題の概要と、関連すると思われる社会問題、リザプロ株式会社推薦対策事業部が想定する回答の方向などをお伝えします!
問題概要
当日は、まず約45分間の模擬講義を受講し、その内容をもとに45分間で論述を行う形式でした。受験生によると、講義は宇宙に関連した内容で、対等な立場にある当事者たちがそれぞれ自分の利益だけを追求した結果、かえって全体の利益が損なわれてしまう状況が説明されたようです。
論述の設問は、講義で説明されたものと同じ構造をもつ社会的課題を自ら取り上げ、その問題状況を説明したうえで、解決の方向性を示すというものでした。講義の具体例をそのまま使うのではなく、抽象的な構造を理解したうえで別の社会問題に当てはめる応用力が問われたといえます。
午後の口頭試問では、「日本の政治参加率(投票率)の低さ」がテーマとなり、その原因、改善策、そして改善策の限界や懸念点を、それぞれできるだけ多く挙げるよう求められました。
用語解説:「社会的ジレンマ」とは
社会的ジレンマとは、一人ひとりが自分にとって合理的な行動をとると、結果として社会全体にとって望ましくない状態が生まれてしまう状況のことです。代表的なモデルに「囚人のジレンマ」や「共有地の悲劇」があります。
宇宙の分野でいえば、「スペースデブリ(宇宙ごみ)」の問題がその典型です。各国や企業が自分たちの衛星を自由に打ち上げ続けると、使用済みの衛星や破片が軌道上に増え、衝突の危険が高まって、やがて誰も安全に宇宙を利用できなくなってしまいます。
しかし、「自分たちだけが打ち上げを控えても損をするだけ」という状況のため、個々の自制だけでは解決しません。そこで、国際的なルールづくりや、協調を促す仕組みをどう設計するかが重要となります。まさに政治学が扱う中心的なテーマといえるでしょう。
関連すると思われる社会問題
この試験内容から読み取れる関連社会問題として、口頭試問でも問われた「投票率の低下」が挙げられます。近年の国政選挙の投票率は5割台にとどまり、特に20代の投票率は3割台と低い水準が続いています。
実は投票率の低下も、社会的ジレンマの視点から説明することができます。一人ひとりにとっては「自分の1票で結果は変わらない」と考え、投票に行く手間を省くのが合理的に見えます。
しかし全員がそう考えると、一部の世代や団体の意見ばかりが政治に反映され、結果として若い世代に不利な政策が選ばれやすくなります。いわゆる「シルバー民主主義」と呼ばれる問題です。
ほかにも、気候変動対策における国家間の協調、水産資源の乱獲、感染症対策におけるワクチン接種なども同じ構造をもつ問題です。政治学科の受験生としては、個人の意識改革に頼るだけでなく、制度や国際的な合意によって人びとの行動をどう変えていくかという視点をもつことが大切です。
理想回答の一例
① テーマ理解
講義で示されたのは、個人の合理的な選択の積み重ねが全体の不利益を生むという構造である。この問題の本質は、他者が協力するかどうか分からない状況では、誰も先に協力しようとしない点にあり、だからこそ協力を可能にする制度や合意の設計が問われる。
② 内容展開の方向性
A. 気候変動対策を題材に、各国が自国の経済成長を優先して温室効果ガスの削減を先送りする状況を、講義で扱われた構造と結びつけて説明する。
B. 「他国が削減するなら自国は削減しなくてもよい」というただ乗り(フリーライダー)の問題を指摘し、国際的な強制力のなさという限界にも触れる。
C. 削減目標の透明化や相互検証、技術・資金支援など、各国が協力しやすくなる仕組みを解決の方向性として提示する。
③ 構成例
序論:個人や集団が自己利益を合理的に追求した結果、全体の利益が損なわれる状況は、国際社会においても存在する。その典型例が気候変動対策である。
本論:温室効果ガスの削減には経済的なコストが伴うため、各国にとっては他国の削減にただ乗りし、自国の負担を避けることが合理的に見える。しかし全ての国がそう判断すれば、削減は進まず、最終的には全ての国が異常気象や海面上昇といった被害を受ける。
これは講義で示された構造そのものである。国際社会には各国に強制できる中央政府が存在しないため、罰則による解決には限界がある。そこで、各国の削減状況を公開し相互に確認し合う仕組みや、途上国への技術・資金支援によって協力のコストを下げることで、各国が自発的に協力しやすい状況をつくることが有効である。
結論:社会的ジレンマは、各主体の善意に期待するだけでは解決しない。協力することが各主体にとっても合理的となるような制度を設計することこそ政治の役割であり、私は法学部政治学科でそのための知見を身につけたい。
面接について
・面接の形式:個別(口頭試問)
・面接官の人数:2人
・面接時間:約15分
・実際にあった質問:
日本の政治参加率(投票率)が低い理由をできるだけ多く挙げよ/それぞれの原因に対する改善策を述べよ/その改善策にはどのような限界や懸念点があるか など
受験生の回答を見ると、「若者の政治への関心の低さ」「地方における投票所へのアクセスの悪さ」「政府への期待の低さ」「シルバー民主主義」といった原因が挙げられ、インターネット投票や期日前投票の拡充、主権者教育の充実などの改善策が述べられていました。
注目すべきは、受験生によって試問の進め方が異なっていた点です。面接官からの反論や追加の質問が一切なく、15分間ひたすら自分の考えを話し続けたという受験生がいた一方で、改善策の懸念点とその対処法まで掘り下げて答えた受験生もいました。
いずれにせよ、「原因→改善策→限界→限界への対処」と、一つの論点を多面的に展開し続けられる思考の持久力が求められたといえます。たとえばインターネット投票であれば、利便性だけでなく、サイバー攻撃や本人確認、投票の秘密をどう守るかといった課題までセットで語れることが高評価につながると考えられます。
なお、当日は午前に講義・論述、昼休憩をはさんで午後に口頭試問が行われました。口頭試問は受験番号順に5人ずつ案内される形式で、法律学科の受験生の後に政治学科の受験生が呼ばれたため、待ち時間が1時間を超えた受験生もいたようです。
受験生からは「講義の内容を理解する練習として、YouTubeなどで講義動画を見て要約する練習を重ねた」「自分なりの記号を使ったメモの取り方を工夫した」といった声が寄せられました。講義の聞き取り、時間配分を意識した論述、そして長い待ち時間の中でも集中力を保つ準備が、合格へのカギとなりそうです。
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