2026年9月19日、慶應義塾大学法学部法律学科のFIT入試A方式二次試験が行われました。未来図編集部が独自に入手した入試問題の概要と、関連すると思われる社会問題、リザプロ株式会社推薦対策事業部が想定する回答の方向などをお伝えします!

問題概要

 当日は、まず約40分間の講義を受講し、その内容をもとに45分間で論述を行う形式でした。講義では、対等な立場にある当事者たちがそれぞれ自分の利益だけを追求した結果、かえって全体の利益が損なわれてしまう状況が取り上げられました。


 論述の設問は、講義で説明されたものと同じ構造をもつ社会的課題を自ら取り上げ、その問題状況を説明したうえで、解決の方向性を示すというものでした。講義の内容をただ要約するのではなく、抽象的な理論を現実の社会問題に当てはめ、さらに解決策まで構想する力が求められたといえます。

 午後には口頭試問が行われ、「転売」をテーマに賛否両論を整理したうえで、自分の立場とその根拠を問われました。

用語解説:「社会的ジレンマ」とは

 社会的ジレンマとは、一人ひとりが自分にとって合理的な行動をとると、結果として社会全体にとって望ましくない状態が生まれてしまう状況のことです。代表的なモデルに「囚人のジレンマ」や「共有地の悲劇」があります。


 たとえば「共有地の悲劇」では、誰もが自由に使える牧草地で各自が自分の牛を増やし続けると、やがて草が食べ尽くされ、全員が損をしてしまいます。
個人にとっては「自分だけ控えても損をするだけ」なので、善意に頼るだけでは問題は解決しません。そのため、ルールや制度によって人びとの行動の前提(インセンティブ)を変えることが解決の鍵となります。ここに、法律が社会の中で果たす重要な役割があるのです。

関連すると思われる社会問題

 この試験内容から読み取れる関連社会問題として、口頭試問でも問われた「チケットや商品の高額転売」が挙げられます。人気公演のチケットや限定商品を転売目的で大量に購入する行為は、転売する個人にとっては利益になりますが、本当に欲しい人が定価で買えなくなり、主催者やファンとの信頼関係も損なわれます。

 「自分が買わなくても誰かが買い占める」という状況が買い占めを加速させる点で、まさに社会的ジレンマの構造をもっています。日本では2019年にチケット不正転売禁止法が施行されましたが、対象はチケットに限られ、グッズや日用品の転売には十分に対応できていないという課題も残っています。

 ほかにも、水産資源の乱獲、気候変動対策における国家間の協調、災害時やパンデミック時の物資の買い占めなども同じ構造をもつ問題です。法律学科の受験生としては、「規制で禁止する」「インセンティブを変える」「当事者どうしの協力の仕組みをつくる」といった複数の解決手段を比較し、法がどこまで介入すべきかを考える視点が求められます。

理想回答の一例

① テーマ理解
 講義で示されたのは、個人の合理的な選択の積み重ねが全体の不利益を生むという構造である。この問題の本質は、個人の善意や道徳心だけでは解決できない点にあり、だからこそ社会のルールを設計する法の役割が問われる。

② 内容展開の方向性
A. 高額転売を題材に、転売者・購入希望者・主催者それぞれの利害を整理し、講義で扱われた構造と同じであることを示す。
B. 「全面禁止」と「市場に任せる」という両極端の立場の問題点を指摘し、利用者の自由と公平性のバランスを検討する。
C. 公式リセール制度の整備や本人確認の徹底など、転売をする動機そのものを弱める制度設計を解決の方向性として提示する。

③ 構成例
序論:個人が自己利益を合理的に追求した結果、全体の利益が損なわれる状況は、現代社会のさまざまな場面に存在する。その典型例が高額転売である。


本論:転売者にとって買い占めは合理的な行動だが、その結果として本当に欲しい人が定価で購入できなくなり、主催者の信頼も損なわれる。また「自分が買わなければ他の誰かが買い占める」という状況が、競争的な購入をさらに加速させる。

 これは講義で示された構造そのものである。解決には、全面禁止のように自由を過度に制限するのではなく、定価での公式リセールの仕組みや本人確認の義務化などにより、転売によって利益を得る動機そのものをなくす制度設計が有効である。


結論:社会的ジレンマは個人のモラルに訴えるだけでは解決しない。人びとの行動の前提となるルールを設計することこそ法の役割であり、私は法学部でそのための知見を身につけたい。

面接について

・面接の形式:個別(口頭試問)
・面接官の人数:2人
・面接時間:約15〜20分
・実際にあった質問:
 転売について賛否両方の意見を述べよ/あなたはどちらの立場か/(反対の場合)具体的にどこから規制すべきか、その基準は/価格に上限を設けると、買いたい層がかえって買えなくなるのではないか など

 受験生の立場に対して、面接官がすかさず反論を投げかけ、考えの一貫性や柔軟性を確かめる形式だったようです。自分の意見を述べるだけでなく、反対意見を想定したうえで根拠を示し、制度として実現可能な解決策まで答えられるかどうかが評価のポイントになったと考えられます。とくに法律学科では「誰が、どのような基準で線を引くのか」という問いへの備えが欠かせません。

 なお、当日は午前に講義・論述、昼休憩をはさんで午後に口頭試問が行われました。口頭試問は受験生5人程度を1セットとしたローテーション形式で進められ、待ち時間も含めると長丁場の一日となります。講義を聞きながら要点を整理するメモの取り方と、長時間でも集中力を保つ体力づくりも、事前に準備しておきたいところです。