「学力試験で測れるのは、学生のポテンシャルのわずか15%」——そんな危機感から生まれた、従来とはまったく異なる入試がある。


 新潟県にある三条市立大学が今年度から導入した「探究ワークショップ型選抜」は、一般的な学力試験とは異なるアプローチで、受験生の“人間力”や“将来性”を多面的に見極める入試だ。
1泊2日をかけて、受験生と大学がじっくり向き合い、互いを深く知り合う。

 今回『未来図』編集部は、7月12日に開催された同大学のオープンキャンパスを訪問。アハメド シャハリアル学長と事務局長の今井さんにインタビュー。
この入試がなぜ生まれたのか、その革新的な仕組みと背景を取材した。

注)「探究ワークショップ型選抜」は三条市立大学が実施する、いわゆる公募制入試である「学校推薦型選抜」とは別の入試形式です。

三条市立大学とは

2021年開学の三条市立大学は、新潟県にある公立大学だ。1学年の定員が80名の小規模校で、工学部 技術・経営工学科の単科大学として「イノベーティブテクノロジスト」の育成に特化している。

最大の特徴は、他に類を見ない163社との産学連携。学生は在学中に複数企業における中長期実習を通じて、企業の現場で実践的な経験を積む。この独特な教育環境が、今回紹介する革新的入試制度の背景にもなっている。

1泊2日の入試方式、その全貌とは?

この入試方式の最大の魅力は、学生の能力を一方向からではなく、多角的に評価できる点にある。
一般的な総合型選抜では、書類審査に加えて面接やグループワークといった1〜2種類の対面評価が主流だが、三条市立大学では学力以外の“伸びしろ”や“人間性”を重視し、以下のように多様な評価方法を組み合わせている。

審査内容は、大きく3段階に分かれている:

【書類審査】
・志望理由書
・調査書
・活動報告書(任意提出)

【対面試験(1泊2日)】
・当日課題型グループワーク
・事前課題型プレゼンテーション
・小論文

グループでの協働力、個人の思考力、表現力――さまざまな角度から“その人らしさ”を見つけ出す仕組みが、2日間のなかで丁寧に設計されている。

学力一辺倒ではこぼれ落ちてしまう「まだ評価されていない力」に、正面から光を当てる入試方式だ。

なぜ「1泊2日型」入試が生まれたのか?

 「入学式の前日まで、私たちは誰が入学するのか紙1枚でしか知らないんです」


三条市立大学のアハメド シャハリアル学長は、従来の入試制度に対する違和感をそう語る。

一般的な大学入試では、学力試験の結果だけで合否が決まるが、それで評価できるのは学生のポテンシャルの「わずか15%」に過ぎないと言う。

では、その“残りの85%のポテンシャル”とは一体何を指すのか。

「たとえば、英語は苦手だけど、手話が得意な子がいるかもしれない。英語の試験しかないと、その手話が得意な子は評価ができません。」

「これは、高校生がなにか素晴らしいものを持っていても、我々が彼らの無限の可能性を見る機会を作ってないことが問題なのです。」

従来の学力試験だけでは見えていない力に気づく機会を、大学側が作れていないのではないか。その問題意識から生まれたのが、「探究ワークショップ型選抜」だ。

こうした学長の理念を、具体的な仕組みに落とし込んだのが「1泊2日」という時間設定である。事務局長の今井さんはその理由をこう語る。

「本学には、ありがたいことに遠方からの受験生もいます。審査側もじっくりと受験生に向き合って、一人ひとりのポテンシャルを見極めようとすると、これだけの時間が必要でした」

1泊2日という時間は、単に試験をこなすための長さではない。受験生の言葉に耳を傾け、課題への取り組みを見守り、相互理解を深めるための「対話の時間」なのだ。

ここで目指すのは、大学が一方的に学生を「選ぶ」のではなく、大学と学生が互いを知り合い、納得のうえで「選び合う」関係

だからこそこの選抜方式には、「学ぶことが目的ではなく、“どう生きるか”を共に考える場でありたい」という、三条市立大学の強い願いが込められている。

入試前から始まっている“相互理解”の場

注目すべきは、事前のオープンキャンパスで行われるワークショップに参加すると、30点が加点されるという仕組みだ。これは「早期から大学と接点を持ち、相互理解を深めようとする姿勢そのもの」を評価する制度でもある。

今回『未来図』では、7月12日に開催されたオープンキャンパスに参加。会場では、入試本番のような張りつめた空気の中でグループワークが行われていた。
 

ワークショップの流れ(約1時間)

テーマ発表(難易度は大学生レベル)

  • 第一部:「この地域に新しく会社を創るとしたら?」
  • 第二部:「包丁の切れ味を定量的に説明せよ」

情報収集:事前資料とスマホ・PC を使った調査

グループディスカッション:3〜4人のランダムなチームで模造紙にまとめる

発表・質疑応答: 教員と参加者からのフィードバック

当日は7~8のグループが編成され、教職員のトレーニングとして各グループに対して2名以上の審査員役が配置されるという徹底ぶり。少なくとも14名以上の教職員がワーク全体を見守っており、メモを片手に巡回するその様子からは、大学側の本気度とともに、独特の緊張感が伝わってきた。

そして、学長自らも学生一人ひとりをじっくり観察していたのが印象的だった。
 

「リーダーだけが評価される時代じゃない」——問われる“チーム力”

評価はどのように行われるのか。事務局長の今井さんに伺った。

「詳しい評価基準はお答えできませんが、グループワークでは、優秀な学生がいるグループがあったとして、そのグループ全体が有利になりがちなので、そのようなことが起こらないよう評価基準を綿密に設定しています。」

「就活では”リーダーシップ”が重視されることも多いですが、世の中で必要な能力はそれだけではありません。」

個人の能力だけでなく、チーム全体への貢献度や協調性も重視されるということだ。

一方で今井事務局長は率直にこうも語る。

「本学としても初めての試みですので、審査側の"目"も今後鍛えていく必要があると考えています」

新しい入試制度は受験生だけでなく、大学側にとってもチャレンジ。試行錯誤を重ねながら、より良い評価方法を模索していく姿勢が印象的だった。

——この仕組みは、受験生の側にも「大学と向き合う意識」を問うている。
一方通行ではない“出会いの場”としての入試。それこそが、三条市立大学の目指す選抜の本質なのだろう。

実際に参加した高校生に聞いてみた

富山県から参加した男子生徒と、自己主張に不安を抱えていたという女子生徒の2名に、率直な感想を伺った。

男子生徒:「富山県から参加を決めました。実際に大学のキャンパスでワークショップを体験してみて、設備や雰囲気を肌で感じることができたのがよかったです。
正直、テーマはすごく難しかったです(笑)。でも、だからこそ『この大学に行きたい』という気持ちが強まりました。
総合型選抜での受験も考えていて、今は小論文の対策をメインに進めています。」

女子生徒:「もともと自己主張があまり得意ではないので、グループワークにはとても緊張していました。
でも、せっかく参加するなら最低限、自分の意見は言えるようにしようと思って臨みました。
実際に参加してみると、同じグループの子たちや周囲の参加者が、自分の考えをしっかり伝えていて、『私も頑張らなきゃ』と良い刺激になりました。
空気感にもだんだん慣れていって、うまく溶け込めたと思います。
総合型選抜も受験する予定で、将来の目標はまだ具体的ではありませんが、“誰かに必要とされるものを作れる人”になれたらと思っています。」

どちらの生徒からも、総合型選抜への前向きな姿勢と、この大学に対する強い関心が伝わってきた。
ワークショップという実践的な体験を通じて、大学の雰囲気や求められる力を体感したことで、受験そのものに対する意識も生まれていた。

163社とつながる、教育の魅力

「知識だけでは大学教授のような専門家にはなれても、現場で活躍する賢人にはなれません。企業が求めているのは、その両方の力をバランスよく持った人材です」と学長は語る。

 同大学のカリキュラムは、知識72%、経験17%、振り返り11%という明確な比率で設計されている。

1年次は企業見学や経営者による講演を通じて、社会に触れ、「気づき」を得るフェーズ。
2年次前半では座学を通じた基礎知識の習得、後半で6週間の中期実習(3社×2週間)で、ものづくりに必要不可欠な企画・開発・生産を現場で多角的に経験する。

3年次には応用・発展科目を学びつつ、最も興味のある領域でいよいよ16週間(約4ヶ月)に及ぶ長期実習に挑む。火曜~金曜までは企業に出向いて実践、月曜には大学に戻って振り返りを行うという、サイクルが構築されている。これだけの実践機会を可能にしているのが、163社という圧倒的な連携企業の存在だ。

さらに特筆すべきは、その企業の“質”である。
たとえば、世界シェア7〜8割を誇るヘッドアップディスプレイメーカー「日本精機株式会社」とは、学部生のうちから共同研究というかたちで最先端技術に関われる環境が用意されている。大学4年生が世界基準のプロジェクトに関わるという経験は、他大学ではなかなか得難いものだ。

まとめ:入試改革が切り拓く未来

三条市立大学の「探究ワークショップ型選抜」は、単なる入試改革を超えた教育哲学の体現だ。学力偏重から脱却し、人間性とポテンシャルに着目する。そして何より、大学と学生が互いを理解し合う時間を大切にする。

「私たちがワクワクしていないのに、人をワクワクさせることはできません」という学長の言葉が印象的だった。小規模大学だからこそ実現できる、一人ひとりと向き合う教育。その入り口として、1泊2日の入試は重要な意味を持っている。

受験生にとっても、自分の将来を真剣に考え、大学との相性を見極める貴重な機会となるだろう。「失われた30年」を作った従来型教育への反省から生まれたこの試み。その成果が、今後の日本の高等教育に与える影響は計り知れない。