2026年9月20日、上智大学経済学部経済学科の海外就学経験者(帰国生)入学試験が行われました。未来図編集部が独自に入手した入試問題の概要と、関連すると思われる社会問題、リザプロ株式会社推薦対策事業部が想定する回答の方向などをお伝えします!
問題概要
当日は、午前に学科試問として数学(60分)と小論文(60分)の2科目、午後に個別面接が行われました。
小論文では、「大学に進学するかどうかは、どのようにして決定されるのか」「大学進学に対する公的支援の拡大に賛成か反対か」という2つの設問が出題され、それぞれ300字以内で答える形式でした。
一見すると教育の問題ですが、進学を「個人の意思決定」として捉え、その費用と便益を考える視点や、公的支援を「政府による資源配分」として捉える視点など、経済学的な思考の基礎が問われたといえます。限られた字数の中で、根拠を明確にして簡潔に論じる力が求められました。
用語解説:「人的資本」とは
人的資本とは、教育や訓練によって身につけた知識や技能を、将来の収入を生み出す「資本」として捉える考え方です。経済学者ゲーリー・ベッカーらによって体系化されました。
この考え方にもとづくと、大学進学は一種の「投資」とみなすことができます。進学には授業料などの直接的な費用に加えて、その期間に働いていれば得られたはずの収入(機会費用)もかかります。
一方で、大学を卒業することで将来の収入が高まるという便益が期待されます。個人はこの費用と便益を比較して進学を決めている、と考えるのが人的資本論の基本的な見方です。
ただし現実には、将来の便益が大きくても、家庭にお金がないために進学をあきらめざるを得ないケースがあります。こうした状況は「流動性制約」と呼ばれ、公的支援の必要性を考えるうえで重要な概念となります。
関連すると思われる社会問題
この試験内容から読み取れる関連社会問題として、「教育格差」と「高等教育の無償化」が挙げられます。日本では、家庭の所得や保護者の学歴、住んでいる地域によって、大学進学率に差があることが指摘されています。
特に地方では、近くに大学が少なく、進学には一人暮らしの費用がかかるため、都市部に比べて進学のハードルが高くなりがちです。
こうした状況を受けて、国は2020年度から低所得世帯を対象に授業料の減免と給付型奨学金を組み合わせた修学支援制度を始め、2025年度からは子どもが3人以上いる多子世帯を対象に、所得制限なしで大学の授業料を一定額まで無償化するなど、支援を拡大しています。
一方で、財源の確保や、支援を受けた学生が十分に学んでいるかどうか、大学に進学しない人との公平性など、課題も指摘されています。経済学科の受験生としては、「支援すべきかどうか」を感情論ではなく、効率性と公平性の両面から論じる視点をもつことが大切です。
理想回答の一例
① テーマ理解
大学進学は、個人にとって将来への投資であると同時に、社会全体の生産性や格差のあり方にも関わる問題である。個人の合理的な判断だけに任せた場合に生じる問題を明らかにし、公的支援の意義と限界を示すことが求められる。
② 内容展開の方向性
【設問1】
A. 進学は、授業料と機会費用という費用と、将来の所得上昇という便益を比較して決定されると説明する。
B. ただし現実には、家庭の経済力(流動性制約)、保護者の学歴や周囲の環境、地域による進学機会の違いなども、進学の判断に大きく影響していることを指摘する。
【設問2】
A. 立場を明確にする(ここでは賛成の立場)。
B. 根拠として、流動性制約の解消による機会の平等、教育の成果が社会全体にも及ぶこと(正の外部性)を挙げる。
C. 財源や公平性、支援の効果検証といった課題にも触れ、条件付きで支援を拡大すべきと論じる。
③ 回答例
【設問1】(300字以内)
大学進学は、進学にかかる費用と、進学によって得られる便益を比較して決定されると考えられる。費用には授業料や生活費に加え、進学せずに働いていれば得られた所得という機会費用が含まれる。
一方、便益としては卒業後の所得の上昇や職業選択の幅の拡大が挙げられる。しかし現実には、この比較だけで進学が決まるわけではない。家庭に十分な資金がなければ、将来の便益が大きくても進学を断念せざるを得ない。
また、保護者の学歴や周囲の進学状況、近くに大学があるかどうかといった環境も、進学の意思そのものに影響を与えている。つまり進学は、個人の合理的な判断と、家庭や地域の条件の双方によって決定されている。
【設問2】(300字以内)
私は大学進学への公的支援の拡大に賛成である。第一に、家庭の経済力によって進学を断念する若者がいることは、本人の能力が社会で十分に生かされないという点で、社会全体にとっての損失である。
第二に、教育によって高まった知識や技能は、技術革新や納税、社会参加を通じて本人以外にも利益をもたらすため、その費用の一部を社会が負担することには合理性がある。ただし、支援の拡大には財源が必要であり、進学しない人との公平性も考慮しなければならない。
そのため、支援は所得の低い世帯を優先するとともに、支援を受けた学生の学習成果を検証し、効果の高い制度へと改善し続けることが条件となる。
面接について
・面接の形式:個別
・面接官の人数:2人
・面接時間:10〜15分程度(長い受験生で20分程度)
・実際にあった質問:
志望理由/関心のある分野(受験生の場合はインフラ整備)に興味をもった理由/大学で何を学びたいか/滞在していた国で見たこと・学んだこと・感じたこと/なぜ国内ではなく途上国に目を向けたのか/将来志望する組織に絞った理由と、他の組織を検討しなかったのか/日本と滞在国の違い/将来その組織で何をしたいか など
志望理由書をもとにした深掘りが中心で、「なぜその分野に関心をもったのか」「なぜ国内ではなく海外なのか」「なぜその進路でなければならないのか」と、選択の理由を何度も問い直す質問が続きました。
受験生の回答を見ると、「海外で通学中に渋滞や冠水で物流が止まる様子を目の当たりにした」「日本では舗装されている農道が、滞在国では土や砂利のままだった」など、自分が実際に見た具体的な光景を根拠として語っていました。
帰国生入試では、海外経験を抽象的に語るのではなく、自分の目で見た具体的なエピソードと、それを経済学的にどう分析したいかを結びつけて話せることが評価のポイントになったと考えられます。
また、将来の進路についても、「なぜ他の組織ではなくそこなのか」を、組織ごとの役割の違いを踏まえて説明できるよう準備しておく必要があります。
なお、当日は9時30分に集合し、10時から数学、11時30分から小論文が行われました。昼休憩の後、14時から面接が始まり、受験生は列ごとに3つの部屋に分かれ、1人ずつ呼ばれる形式でした。呼ばれる順番によっては、面接が15時を過ぎる受験生もいたようです。
受験生からは「数学をもっと勉強しておくべきだった」「過去問にとらわれすぎないほうがいい」という声が寄せられており、過去の出題傾向だけに頼らず、数学の基礎力を幅広く固めておくことが合格へのカギとなりそうです。
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