みなさんは、大学生になったらどんなことがしたいですか? 中学・高校よりも格段にできることの幅が広がる大学生活。部活、バイト、サークル、課外活動、研究活動はもちろん、企業インターンシップでビジネススキルを磨いたり、自ら事業を立ち上げたりと、やりたいことは何でもできるといっても過言ではありません。

でも、高校生の内はそれがなかなか見えてこない。先輩たちの話や、大学のパンフレットなどで垣間見えるものはありますが、「大学生になったら、どんなことができるのか?」がわからないと、夢を描くのも難しいですよね。

そこで、本連載では「大学で熱中する人」に話を聞き、「どんな活動をしているのか?」について徹底的に調査していきます。

今回お話を伺うのは、現在東京大学4年生の坂木駿吾さん。東大生というとがり勉なイメージがついて回る中、彼はスキーに熱中して年間80日以上を雪山で過ごしているのだとか。スポーツとしての楽しみもありつつ、これによって深まる友情や人間性などもあるといいます。スキーへの情熱を聞いていきます。

「怖い」。だからこそ「楽しい」。

__そもそも、どうしてスキーを選んだのでしょうか?


坂木:大学のサークルって、高校の部活などとは違って、結構参加ハードルが緩いんですよね。「兼サー」といって、複数の団体に同時所属する人も多い。

部活に一点集中すると、「参加しないと」とか「気まずくなったら嫌だ」とか、色々考えることが増えるじゃないですか。その点、兼サーすれば、コミュニティと合わなくても別の団体に行けばいい。

色々と広く見据えたほうが、後悔も少なそうですから、とりあえず5つのサークルに入りました。その中に、スキーもあったんです。

実際に山に行ってみると、やっぱり怖い。僕は小学校の時にコーチに指導してもらった経験があったので、まだマシな方でしょうが、それにしても足元を板に固定されてコントロールの効かない雪の斜面を高速で滑り降りるのは、恐怖以外の何物でもないですよ(笑)。

でも、一度上から下まで滑り降りられると、それまでのしかかってきた苦労や恐怖が、全部達成感に裏返るんです。ここまで何度も転びながら、恐ろしさと戦いながら、文字通り七転び八起きで頑張ってきた思い出が全部自信に変わって、そこからはもう楽しくてしょうがなくなります。

坂木さん(本人提供)

滑った恩は働いて返す?

__確かに楽しそう! ですが、なんだかハードルが高いスポーツなイメージがあります。雪山に行くのも大変ですし、機材をそろえるのもお金がかかりますし……。


坂木:確かに、お金はかかります。日帰りでも交通費含めて2万程度、1泊するなら3~4万はみたほうがいいでしょう。完全にゼロから揃えるなら、自費で賄うのは難しいかもしれません。

でも、私は親からの援助を受けていません。別に、稼いでいるわけでもありません。大学生でもスキーができるように「居候」という仕組みがあるんです。

 「居候」とは、雪山にある旅館などで住み込みのバイトをする制度。朝や夜など忙しい時間帯はしっかり働く必要がありますが、代わりに①宿泊費 ②リフト代 ③食事代が浮くんです。仕事は大変ですけれど、裏側を見られるのは勉強になりますし、外国人のお客様も多いので英語力も鍛えられます。

僕が働いていた時にも、外国人のお客様がいらっしゃいました。この旅館では僕以外誰も英語が話せなかったので、色々と重宝されていたのですが、ある時体調を崩されて「病院へ行きたい」と言われたんです。

もちろん、医学用語なんて何もわかりませんが、それでも手探りでやってみたら、意外となんとかなりました。お客様からも、旅館の方からも感謝されてうれしかったですし、「ハチャメチャ英語でも通じるんだ」と発見できたのもよい経験でした。

仕事仲間との交流も

__それは、貴重な経験でしたね! お仕事に向かわれる「居候」の仲間でも交流はあるんでしょうか?

坂木:もちろんあります! 色々な大学サークル・部活などの団体に、それぞれ懇意にしている旅館・宿があるので、同じ大学のみならず、他大学の方と合同になることもしばしば。もちろん、「スキー」以外の共通点がなくて、お互いに手探りで交流するのが当たり前です。

ただ、これってなかなか大学生活でも身につきにくいものだと思うんです。大学内の色々な人々と交流するのもいいですが、違う大学に通う人って、そもそも生まれ育った環境や通ってきた学校など、全く自分と異なる種類の経験値を積んでいることも多い。それだと、そもそも交流できないところを、僕たちの場合は「スキー」で仲良くなるきっかけを持てるんですね。

同じゲレンデで滑っているだけで、うまい人に「○○を教えて!」と声をかけたり、転んだ人に「大丈夫?」と声をかけたり、いくらでも交流のタイミングが生まれる。こんなに人と仲良くなれる環境は、ほかにありませんよ!

交流会の写真(本人提供)

__素晴らしいですね! スキー以外では何か交流をされるんですか?

坂木:基本はスキーを通じてなんですが、大学3年生の時には、オフシーズンの夏でもスキーヤー同士で仲良くなりたくて、交流会を開きました。日本トップクラスの選手をゲストに呼んで、意見交換をしたり、合同練習をしたり、とても盛り上がっていました。

特にうれしかったのは、僕自身には何か実績があったわけではないのに、たくさんの大学生スキーヤーや、現役プロ選手が来てくれたこと。

僕一人の力ではなくて、みんなで力を合わせた結果ですが、逆に言えば「誰かが声を挙げなければ、このような結果を引き出せなかった」わけです。「行動するから形になるのであって、できるから動くのではないんだな」と、心に沁みました。

大会前日に断念した過去

__とても魅力的なお話ですが、楽しいばかりではないですよね。やはり、大変な一面もあるのでしょうか?

坂木:スキー自体は安全に気を付ければ、非常に低リスクで楽しめるスポーツです。しかし、裏を返せば「気を付けなければ危険」でもある。

大学2年生の時です。僕は、ある大会でどうしても結果を出したくて、がむしゃらに練習し続けていました。そうしたら、案の定「靱帯断裂・半月板損傷・軟骨紛失」の大けがを負ってしまった。よりによって、大会前日の直前練習でことでした。帰京するまでホテルでひとり待機した2日間は、惨めで悔しくて、でも周りの仲間たちに当たり散らしてもしょうがないので、無理に作り笑いをして……つらい思いをしました。

東京に帰ってきて、手術をしました。3月に壊した足は、11月に復帰できるようでした。半年以上ロクに運動できない絶望感もありましたが、僕がめげなかったのは、全日本選手権に出るほど上手な先輩の励ましがあったからでした。「自分も靱帯をやっているが、今は復帰した。君も諦めなければ大丈夫」と元気づけられたおかげで、僕はつらいリハビリを乗り越えられたんです。翌年の全国学生大会では100位まで上り詰められました。

リハビリ期間中は、怪我の看病をしてくれた人、応急処置をしてくれた人、病院や学校へ送り迎えをしてくれた両親など、「色々な人の世話になって生きている」ことを、強く実感する時期でもありました。

「誰かのおかげで生きている」。当たり前のことですが、ここまで強く実感させられたのは、初めてでした。ここから、僕は他人に対してちょっとやさしくなれた気がします。

入院中の様子(本人提供)


__運動としてのみならず、人生観を深めてくれたんですね。やはり今後もスキーを続けていくのでしょうか?

坂木:もちろんそのつもりです! ただ、今年は研究の方にかかりきりになる予定で、どうにも滑る余裕はなさそうです……(笑)。

僕は大学で、昆布を研究しています。

昆布って身近な食材ですが、意外と奥深いんです。
たとえばmグルタミン酸(うまみ成分の一つ)がとても多いんですけど、「なんで多く含まれるのか?どういう酵素が大事なのか?」を化学的に分析したり、「どうやったら熱に強い昆布が作れるのか?」を考えたりします。

実は、この10年間で一気に昆布の収穫量が半減しているんです。天然物ばかり需要が高まっているため、良質な養殖物が求められている。そのためには、「どうして、どのようにして昆布がグルタミン酸を貯めるのか」という基礎研究が、もしかしたら役に立つかもしれません。

とはいえ、スキーに興味を持ってくれる人、スキーを通じて交友が生まれる人など、色々な人々との交差点になっているこのスポーツをやめるつもりはありません。それに、自分がはじめの一歩を踏み出す重要性も知れました。今後は、スキーだけにこだわらず、「みんなが交流できる場所」を作れるように、動き出すことを恐れない自分であり続けたいと思います。