未来図代表の孫辰洋が、このたび新刊『総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書』(SBクリエイティブ、監修:中山芳一)を刊行しました。合格者5000人分のデータ分析に基づき、総合型選抜・学校推薦型選抜の全体像から具体的な対策までを網羅した一冊です。今回はその内容を抜粋しながら、シリーズで大学入試の「いま」をお伝えしていきたいと思います。

 第二回のテーマは、推薦入試を検討し始めた受験生と保護者の方が、ほぼ例外なく最初にぶつかる誤解についてです。「推薦入試に挑むなら、海外留学が必要なのか」「英検を取っておけば有利になるのか」「ボランティアに参加させておくべきなのか」――こうしたご相談を、私たちは日々本当に数多く受けています。

 その答えを、今回は一つひとつ、丁寧にほどいていきたいと思います。まずは、こちらの漫画をご覧ください。

「立派な実績集めゲーム」だと思っていませんか

 漫画の一コマ目で、受験生たちが口々に語っている内容――「海外留学が必要」「英検を取れば有利」「ボランティアがいい」――これらは、いま推薦入試を意識している高校生と保護者の方の"典型的な誤解"を、そのまま並べたものです。

 こうした発想の根っこにあるのは、推薦入試を"実績を集めるゲーム"だと捉える視点です。何かキラキラした肩書きを揃えれば通る、逆にそういう肩書きがなければ通らない――そう考えてしまう気持ちは、私たちもよく理解しています。長年、日本の受験は「点数」と「肩書き」で語られてきましたから、その延長線上に推薦入試を置いてしまうのは、ある意味自然なことでもあります。

 しかし、この発想のまま推薦入試に挑むと、多くの場合、大きな遠回りをすることになります。なぜなら、推薦入試はそもそも"実績を集める入試"ではないからです。

学部が違えば、評価される力もまったく違う

 「推薦入試は学部や入試方式ごとに求められるものが全然違う。」

 このことを知らずに推薦入試を語る人が多いです。具体的に見ていきましょう。

 たとえば、国際系の学部であれば、海外留学や英語資格の高スコアが評価につながる可能性は確かに高いです。異文化理解や語学力が学問の土台に組み込まれているため、こうした経験は"学びのスタートライン"として大学側にも評価される傾向があります。国際教養学部、国際関係学部、外国語学部などが分かりやすい例です。

 一方で、理系学部や経済学部では、事情が変わります。ここで有利になるのは、数学の成績や、数理的な探究活動、あるいは科学系のコンテスト経験などです。同じ学生が同じ英検一級のスコアを持っていても、理学部物理学科の推薦入試ではあまり評価に直結しないことがあります。

 さらに言えば、教育学部であれば教育に関する具体的な問題意識や活動経験、法学部であれば社会規範や公共性への関心、文学部であれば人文的な探究の深さが、それぞれ評価の中心軸になります。

 つまり、「推薦入試に有利な実績」というものは、学部を離れて一般化することができないのです。あるのは、「その学部の学びに接続する経験」だけです。

「英検を取れば有利」の落とし穴

 ここで、もう少し踏み込んで考えてみましょう。

 「英検を取っておけば、推薦入試で有利になりますよね?」というご相談は、本当によく受けます。答えは、シンプルに言えば「学部と方式による」となります。

 英語力を出願要件に組み込んでいる推薦入試方式は、確かに一定数あります。特に国際系の学部や、一部大学の総合型選抜では、英検二級以上、あるいは準一級以上といった具体的なスコア基準が設けられていることがあります。この場合、英検を取っておくことは"出願のパスポート"として機能します。

 しかし、そうでない学部・方式では、英検のスコアはあくまで評価要素の一つにすぎません。志望理由書の内容が薄ければ、英検一級を持っていても不合格になることは普通に起こります。逆に、英検三級しか持っていなくても、その学部との接続がきれいに描けている生徒は、合格の可能性があります。

 「英検を取れば有利」は、半分正しく、半分間違っています。大切なのは、その資格が志望学部の学びと本当に接続しているかどうかなのです。

「ボランティアがいい」の落とし穴

 同じことは、ボランティア経験にも言えます。

 「うちの子、ボランティアに参加させておいた方がいいですよね?」というご相談も、非常に多くいただきます。もちろん、ボランティア活動そのものは、社会と接点を持つ素晴らしい経験です。しかし、それを"推薦入試のための実績"として捉えた瞬間に、実は落とし穴が待っています。

 ボランティアに参加した"事実"だけでは、志望理由書は書けません。大学が読みたいのは、「そのボランティアで何を見たのか」「そこから何を感じ、どう考えたのか」「その経験が、なぜこの学部での学びにつながるのか」――こうした深掘りされた思考の跡です。

 学部との接続が語られない"実績としてのボランティア"は、志望理由書の中で沈黙してしまいます。次回以降の記事で詳しくお伝えしますが、これは推薦入試における非常に大切なポイントです。

「どの大学の、どの学部を、どう受けるか」

 ではどうすればいいか?

 まず、実績を集めるところから始めてはいけません。最初にやるべきなのは、志望する大学と学部を絞ることです。そして、その学部が求めている学生像を丁寧に読み込むこと。さらに、その大学の中でも「どの入試方式で挑むのか」を選ぶこと。ここまでが定まって初めて、「そのために、いま自分は何を積み上げるべきか」が見えてきます。

 つまり、順番が逆なのです。「実績を集める→志望校を決める」ではなく、「志望校を決める→そこに必要な学びと経験を深める」――これが、推薦入試における正しい準備の流れです。

 この順番を理解できれば、推薦入試の準備は驚くほどスムーズに動き始めます。逆に、この順番を間違えたまま突き進んでしまうと、どれだけ立派な"実績"を積み上げても、志望理由書の一行目でつまずいてしまうのです。

次回:「実績があっても落ちる人」の共通点

 次回は、この話題をさらに深掘りして、「立派な実績を持っているのに、推薦入試で不合格になる人たちの共通点」について、実例を交えながらお伝えしていきます。アフリカでのボランティア経験を持ちながら、建築学部で不合格になった生徒の話――そんなショッキングなケースを通して、推薦入試の本質にもう一歩踏み込んでいきましょう。

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次回:【推薦入試の基本③】アフリカでボランティアをしても、建築学部には受かりません ― "キラキラ実績"が推薦入試で通用しない、本当の理由