2026年9月20日、慶應義塾大学法学部政治学科のFIT入試B方式二次試験が行われました。未来図編集部が独自に入手した入試問題の概要と、関連すると思われる社会問題、リザプロ株式会社推薦対策事業部が想定する回答の方向などをお伝えします!
問題概要
当日は、午前に「総合考査Ⅰ」「総合考査Ⅱ」の2つの筆記試験(各45分)、午後に個別面接が行われました。
総合考査Ⅰは資料読解型の問題で、国際収支のうち経常収支を構成する「サービス収支」をテーマに、6つの図表から日本のサービス貿易の経年変化の趨勢と特徴を400字程度で論じるものでした。問題文では、国際貿易において財(モノ)だけでなくサービスの重要性が世界的に高まり、その内容も多様化していることが示されていました。
総合考査Ⅱは、2つの文章(受験生によると英文を含む)を読んだうえで、「能力主義」について自分の考えを400字程度で述べるものでした。
いずれも400字程度と字数が限られているため、資料や文章から要点を素早くつかみ、無駄のない文章で論じる力が求められたといえます。
用語解説
【サービス貿易・サービス収支】
サービス貿易とは、モノ(財)ではなく、目に見えないサービスを国境を越えてやり取りすることです。代表的なものに、旅行、輸送、通信・コンピュータサービス、特許などの知的財産の使用料、コンサルティングなどがあります。
たとえば、外国人観光客が日本で宿泊や食事をすると、日本にとってはサービスの「輸出」となります。反対に、日本の企業や個人が海外のクラウドサービスや動画配信サービスに料金を支払うと、サービスの「輸入」となります。
【能力主義(メリトクラシー)】
能力主義とは、家柄や身分ではなく、個人の能力や努力、成果によって社会的地位や報酬が決まるべきだという考え方です。
一見すると公平な仕組みですが、近年は「能力を身につける機会そのものが家庭環境によって左右されている」「成功した人が自分の努力だけの結果だと考え、そうでない人を見下す風潮を生む」といった問題点も指摘されています。アメリカの政治哲学者マイケル・サンデルによる『実力も運のうち』は、こうした能力主義の問題を問いかけた著作として広く知られています。
関連すると思われる社会問題
総合考査Ⅰに関連する社会問題として、「デジタル赤字」と「インバウンド観光の拡大」が挙げられます。日本のサービス収支は長く赤字が続いていますが、その内訳は大きく変化しています。訪日外国人観光客の増加によって旅行収支は大きな黒字となる一方、海外企業のクラウドサービスやネット広告、ソフトウェアなどへの支払いが増え、デジタル関連の赤字は年々拡大しています。
また、日本企業が海外で稼ぐ特許などの知的財産使用料は黒字を維持しています。「どの分野で稼ぎ、どの分野で支払っているのか」という構造の変化を読み取ることが、日本の産業や経済安全保障を考えるうえで重要な視点となります。
総合考査Ⅱに関連する社会問題としては、「教育格差」や「自己責任論」が挙げられます。家庭の経済状況によって塾や習い事、進学の機会に差が生まれ、それが学歴や収入の差につながるという問題は、日本でも指摘されています。
能力主義を支持するか否かという二択ではなく、「能力主義が公正に機能するための条件は何か」を考えることが、政治学科を志望する受験生には求められます。
理想回答の一例
【総合考査Ⅰ】
① テーマ理解
日本のサービス収支は全体として赤字基調が続いているが、その内訳を見ると、分野ごとに正反対の動きが生じている。全体の数字だけでなく、項目ごとの変化とその背景を読み取ることが重要である。
② 内容展開の方向性
A. サービス収支全体の推移(赤字基調かどうか、赤字幅の変化)をまず示す。
B. 旅行収支の黒字化・黒字拡大と、その背景にある訪日外国人観光客の増加を指摘する。
C. 通信・コンピュータ関連や知的財産使用料など、デジタル分野の赤字拡大を指摘し、日本が海外のデジタルサービスに依存している構造を示す。
D. 感染症の流行期など、特定の時期に見られる大きな変化があれば、それにも触れる。
③ 構成例
序論:日本のサービス貿易は、全体として赤字基調にあるが、その構造は大きく変化している。
本論:第一に、訪日外国人観光客の増加により旅行収支の黒字が拡大し、観光がサービスの主要な「輸出産業」となっている。第二に、クラウドサービスやネット広告などデジタル関連の支払いが増加し、この分野の赤字が拡大している。第三に、特許などの知的財産使用料は日本企業の海外展開を背景に黒字を維持している。
結論:日本のサービス貿易は、観光と知的財産で稼ぐ一方、デジタル分野で海外に依存する構造へと変化しており、デジタル分野での競争力強化が課題といえる。
【総合考査Ⅱ】
① テーマ理解
能力主義は、生まれによる差別をなくし、努力が報われる社会をめざす点で意義がある。一方で、能力を身につける機会そのものが不平等であれば、能力主義はかえって格差を正当化する仕組みになりうる。
② 内容展開の方向性
A. 能力主義の意義(身分制からの解放、努力へのインセンティブ)を認める。
B. 機会の不平等や、成功者の傲慢と敗者の自己否定といった問題点を指摘する。
C. 能力主義を否定するのではなく、機会の平等を保障する政策や、多様な評価軸の必要性を提示する。
③ 構成例
序論:能力主義は、生まれに関係なく努力が報われる社会を実現する理念として一定の意義をもつ。
本論:しかし現実には、家庭の経済力によって教育機会に差が生じており、「能力」の中には本人の努力だけでなく環境や運が大きく含まれている。それにもかかわらず結果を個人の実力とみなせば、格差は自己責任として正当化され、社会の分断を深めることになる。
結論:能力主義が公正に機能するためには、教育の機会の平等を政治が保障するとともに、学力や収入だけではない多様な貢献を評価する社会をつくることが必要である。
面接について
・面接の形式:個別
・面接官の人数:2人
・面接時間:10分(タイマーで計測されていたとの声も)
・実際にあった質問:
志望理由/慶應でなければならない理由/研究テーマに関心をもったきっかけ/出願書類の内容の深掘り/将来就きたい職業と、そこで何を成し遂げたいか/入学して最初に身につけたい基礎知識は何か/参考にしている海外の事例のどこを取り入れたいか、またその事例に悪い点はないか/(外交に関心をもつ受験生に対して)ソフトパワーとは何か、なぜ有効なのか、日本のソフトパワーとして魅力的なものは何か など
B方式の面接は10分と短く、出願書類に基づいた志望理由と研究テーマの深掘りが中心でした。「なぜその課題に関心をもったのか」というきっかけから、「将来何を成し遂げたいか」までを一貫したストーリーとして語れるかどうかが問われたといえます。
また、自分が参考にしている事例について「悪い点はないのか」と問われるなど、自分の主張を客観的に見つめ直す視点も試されていました。自分の研究テーマにとって都合のよい面だけでなく、その限界や課題まで事前に整理しておくことが大切です。
さらに、受験生からは「出願書類に名前を挙げた教授が面接官だった場合に備えて、第一に学びたい教授以外についても、その教授のもとで学ぶ意義を説明できるようにしておけばよかった」という声も寄せられました。
なお、当日は総合考査Ⅰ・Ⅱの後、昼休憩をはさんで受験番号順に面接が行われました。面接の順番によっては待ち時間が2時間近くになる受験生もいたようです。
受験生からは「どの方向から質問されても答えられるよう練習したことが役立った」「英文和訳の練習をしておいてよかった」といった声が寄せられており、面接の準備と並行して、英文読解の力も磨いておく必要がありそうです。
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