「実学主義」を掲げ、「総合農学」で地球の課題に挑む東京農業大学。世田谷・厚木・北海道オホーツクの3キャンパスに6学部23学科を展開する。

水田や畑、動物の飼育――そんなイメージだけでは、この大学の広がりは捉えきれない。

未来図編集部は世田谷キャンパスの入学センターを訪ね、ご担当者に、農大ならではの学びと、評定の数値基準を設けない「総合型選抜 全学部」で重要視していることを伺った。

山頂から海まで。「生産・加工・流通」をつなぐ総合農学

「東京農業大学というと、水田でお米を作ったり、畑で野菜を作ったり、動物を飼育しているイメージが強いと思います。もちろんそれらもやっていますが、『それだけじゃない』のが特徴です」


取材の冒頭、ご担当者はこう切り出した。同大の学びは森林や環境保全に始まり、川をたどって海洋・水産まで、いわば山頂から海までのあらゆる環境に及ぶ。

さらに、生産物を食べられる形にする食品加工や栄養の学び、商品を消費者へ届ける流通・経済・経営の学び、農業を通じた国際協力、動物、造園や都市計画まで――。


同大は、生産・加工・流通をはじめ、環境や経営、国際協力なども含む幅広い学びを「総合農学」と位置づける。


ここで気になるのが、「幅広い=広く浅く、にならないか」という点だ。答えは明快だった。


「大学としてカバーする範囲は広いのですが、23学科にかなり細分化されています。広く浅くではなく、各学科の学びはむしろマニアックなほど専門的です」


農学と経済学を「掛け合わせる」のではなく、農学という学問の中に経済も環境も生命科学も、構成要素として最初から含まれている。同じ研究対象でも、アプローチが変われば研究手法も学科も変わる。


「やりたいものを見つけられれば、非常に濃厚な4年間を送れる環境です」


学科は「研究室からの逆引き」で選ぶ

東京農大の学科選びで重要になるのが、入学後に取り組みたい研究を具体的に調べることだ。ご担当者によれば、やりたい研究がどの学科の研究室にあるかを調べ、研究室から逆引きして志望学科へたどり着く受験生も多いという。


すべての学科で3年次から研究室に所属し、卒業研究に向けて専門を深める。ほとんどの研究室が複数の教員で構成されており、研究テーマを軸に継続的な指導を受けられる点も特徴だ。


もうひとつの手がかりが、大学案内などで紹介されている「学びのキーワード」だ。少しでも興味のある言葉から関連する学部・学科や研究内容を調べていく。

「学科名の先入観にとらわれず、キーワードから逆引きすると、思わぬ学科に自分のやりたいことが見つかります」


たとえばデザイン農学科では、ホースセラピーや、生物の仕組みをものづくりに生かすバイオミメティクスなど、学科名だけからは想像しにくいテーマも扱っている。


身近な研究例として挙がったのが、お腹に優しい牛乳として注目されている「A2ミルク」だ。動物科学科では、牛乳タンパク質の一つであるβ-カゼインのA1型・A2型を判別する遺伝子検査法に関する研究が行われている。研究室のテーマをたどることで、学科名だけでは見えにくい、食や産業との接点が見えてくる。

「実学主義」が縮める、教員との距離

学生約1万3000人を擁する大規模な大学でありながら、ご担当者は教員と学生の距離は近いと話す。


理由のひとつは、全学生が所属する研究室で専門を深める教育体制。もうひとつが、開学当初から掲げてきた「実学主義」だ。


「今は多くの大学が実学を謳っていますが、本学は開学当初から重きを置いてきました。座学だけでなく、実験・実習・演習系の科目を豊富に置いて実践力を養う。教員と学生が一緒に協働して作業する場面が多いので、おのずと信頼関係や距離の近さが生まれてくるんです」


一方通行の講義だけではなく、フィールドや実験室で教員と学生がともに手を動かす。東京農大の教員と学生の距離の近さは、教育理念と日々の学び方から生まれている。


総合型選抜は「専願」が基本。一連のストーリーを見る

主な入試は、総合型選抜・学校推薦型選抜・大学入学共通テスト利用選抜・一般選抜の4本柱。特徴的なのは年内入試だ。


2027年度の主な総合型選抜は、原則として「合格したら入学する」専願を前提とする。一般の受験生が利用できる方式では、生物産業学部〔併願方式〕が例外となる。


なかでも、全学部・全学科を対象とする「総合型選抜 全学部」は、「全体の学習成績の状況」に数値基準を設けていない。

ただし、評定の数値基準がないことは、「学力を見ない」という意味ではない。調査書や自己推薦書、事前課題、口頭試問(面接)などを通じて、学科で学ぶための基礎学力を含め、総合的に評価される。


鍵になるのが「事前課題」だ。募集要項の公開に合わせてテーマが公表され、受験生は夏休みなどを使ってじっくり取り組む。

「学科への理解度、大学への理解度、志望度は、きちんと調べていないと書けない内容です。自分で調べ、人に聞くという探究的な要素もあり、思考力や表現力も見えてきます」


選考の過程で重要視しているのは、「何を学びたいのか、なぜ本学なのか、どの研究室でどう学び、社会でどう活躍したいのか」という一連のストーリーだという。

背景には、「ミスマッチをできる限り防ぎたい」という思いがある。学科が細分化されている分、志望動機で語った研究がその学科には存在しないという勘違いは、受験生にとっても大学にとっても望ましくないからだ。


一方で、「もったいない」のは、規定の文字数を大幅に余らせる、誤字脱字が多い、規定どおりに作られていないといった書類だ。

「熱い思いがあっても、文章の基礎的な作成能力で弾かれてしまうのはもったいない。アドミッション・ポリシーを読めば必要な学びは分かるので、高校の勉強をきちんと押さえた上で臨んでほしいですね」


オホーツクは「国内留学」

ご担当者が最後に熱を込めて語ったのが、北海道・網走市にある生物産業学部だ。


亜寒帯の農業を学ぶ北方圏農学科、海洋系学科である海洋水産学科、食品・香料・化粧品を学ぶ食香粧化学科、自然資源を観光やビジネスにつなげる自然資源経営学科。エミューの飼育・活用や、オジロワシなど貴重な生物の生態研究も行われている。


「学生の約9割は道外出身者で、関東からも多く集まります。ほぼ全員が一人暮らし。私たちは『国内留学』と呼んでいます」


親元を離れ、オホーツクの自然環境と地域社会の中で専門を学ぶ。研究内容だけではなく、4年間をどのような環境で暮らすのかまで含めて進学先を選ぶことが、北海道オホーツクキャンパスで学ぶ意味のひとつだ。


高校の先生へ――「農学は農業だけじゃない」

最初から「農学を学びたい」と考えている生徒は少数派かもしれない。


しかし、「化粧品に興味がある」「動物の行動を研究したい」「環境問題に関わりたい」「地域資源を生かした事業をつくりたい」といった関心をたどると、その先に東京農大の学科や研究室が見つかることがある。


だからこそと、ご担当者は全国の先生方に呼びかける。


「化粧品の研究も、アザラシの生態研究も、東京農大にはあります。生徒さんが『実は化粧品に興味がある』と口にしたとき、『それ、東京農大で学べるよ』と背中を押していただけたらうれしいです。農学の学びは、想像以上に広いんです」


学科名を先に決めるのではなく、関心のある言葉から研究室へと逆引きする。東京農大の広い農学の学びの中から、自分がやりたい学びを見つけるための第一歩は、そこにある。