未来図代表の孫辰洋が、このたび新刊『総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書』(SBクリエイティブ、監修:中山芳一)を刊行しました。合格者5000人分のデータ分析に基づき、総合型選抜・学校推薦型選抜の全体像から具体的な対策までを網羅した一冊です。今回はその内容を抜粋しながら、シリーズで大学入試の「いま」をお伝えしていきたいと思います。

書籍情報

  • 書名:総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書
  • 著者:孫辰洋(監修:中山芳一)
  • 出版社:SBクリエイティブ(2026年7月31日刊)
  • 価格:単行本 1,540円〜/Kindle版 1,870円〜
  • ISBN-13:978-4815644024
  • Amazonで購入する

 ここまで9回にわたり、推薦入試の全体構造、実績と学部の接続、自己理解・社会読解・自己展開の3つの過程、志望理由書の書き方、自己分析の手法、社会読解の身につけ方、英検と評定の重要性、そして志望校研究の徹底まで、具体的な技法を積み上げてお伝えしてきました。

 最終回のテーマは、「自分の"好き"を、くだらないと思わない勇気」についてお伝えしたいと思います。

 まずは、こちらの漫画をご覧ください。

「自分には強みも好きなものもない」という声

 「自分って、なんの強みもないし、好きなものもないんだよな」――リザプロで自己分析を始めた受験生たちが、本当に頻繁に口にする言葉です。

 面白いのは、この言葉を口にする生徒たちが、決して「何もない」わけではないということです。彼らの日常をよく聞いていくと、実は、驚くほどたくさんの"好き"を持っていることがわかります。毎週欠かさず観ているスポーツの試合、休日に何時間でも没頭できるゲーム、なぜか気になって仕方ない街の風景、YouTubeで延々と観てしまう料理動画、集めているスニーカーのブランド、朝早く起きて登る近所の山――。

 しかし、多くの生徒がこう言うのです。「そんなの、受験には関係ないですよね」「これって、大学に持っていくような話じゃないですよね」と。「自分の"好き"を、自分でくだらないと決めつけてしまう」――これが、日本の高校生の多くに共通する、非常にもったいない癖なのです。

バレエが、国際文化系の学部への扉になった

 実際にリザプロで見てきた合格例を、少し丁寧にご紹介します。バレエが好きだった生徒が、その関心をきちんと深掘りしていった結果、国際文化系の学部に合格したというケースです。

 「バレエが好き」という一言だけでは、確かに志望理由書にはなりません。しかし、その"好き"を、粘り強く深めていくと、話は変わってきます。バレエの歴史はどこから始まったのか。ロシア、フランス、イタリアといった国々で、それはどのように発展してきたのか。日本にバレエが伝わってきた経緯はどうだったのか。現代のバレエ界で、日本人ダンサーが世界的に活躍している背景には、何があるのか。異なる文化圏で、身体表現の"美"はどう異なって捉えられているのか――。

 こうして掘り下げていくと、バレエという一つの趣味は、文化人類学・比較文化論・芸術学・国際交流論といった学問領域と、次々に接続していきます。この生徒は、自分の"好き"を軸に、志望学部が扱う学問と真っ直ぐに繋がる志望理由書を書き上げ、面接でも自分の言葉で語り切って、合格を勝ち取ったのです。

ヒップホップも、野球観戦も、山登りも

 ヒップホップや野球観戦、山登りといった趣味を武器にして推薦入試を突破した生徒たちも、同じくリザプロには数多くいます。

 ヒップホップが好きだった生徒は、その関心を「音楽の中に埋め込まれた社会批評」という切り口で深掘りし、社会学系の学部に合格していきました。人種、貧困、地域格差、若者文化――ヒップホップの歌詞と歴史を辿ることは、そのままアメリカ社会と、そして日本の若者文化の研究に繋がっていったのです。

 野球観戦が好きだった生徒は、選手のパフォーマンスとチーム経営、スポーツビジネス、地方球団と地域経済との結びつきといった観点から関心を広げ、経済・経営系の学部で合格を勝ち取りました。山登りが好きだった生徒は、地形学、生態系、環境保全、地域観光といった領域へと関心を伸ばし、地理学や環境系の学部への切符を手にしました。

 どれも、出発点は「趣味」です。しかし、その趣味を「くだらない」と切り捨てず、真剣に掘り下げた瞬間、それは学問の入り口へと姿を変えたのです。

"好き"を掘り下げる、たった一つのコツ

 では、自分の"好き"を深掘りするには、どうすればよいのか。特別な方法は必要ありません。ただ一つ、「なぜ?」を五回繰り返す――これだけで十分です。

 たとえば、「野球観戦が好き」という出発点から始めてみましょう。

 なぜ野球観戦が好きなのか?「試合の展開が読めないから」。なぜ展開が読めないのが面白いのか?「一球ごとに戦略が変わるから」。なぜ戦略の変化に惹かれるのか?「監督や選手が瞬時に判断している姿に興奮するから」。なぜその判断の速さに惹かれるのか?「自分は迷いやすい性格で、即断できる人に憧れがあるから」。なぜ即断できる人に憧れるのか?「意思決定の質が結果を分ける瞬間に、人生の本質を感じるから」――。

 こうして「なぜ?」を五回重ねると、出発点の「野球観戦が好き」からは、想像もしなかった深さの答えが引き出されてきます。そしてこの答えの中に、志望理由書の核になる材料が、必ず眠っているのです。

"好き"を否定しない、という家庭の力

 保護者の方に、シリーズ最終回のお願いとして、ぜひお伝えしたいことがあります。それは、お子さんの"好き"を、絶対に否定しないでほしい、ということです。

 「そんなもの、勉強に何の役に立つの」「そんなことばっかりやっていないで、宿題をやりなさい」――こういう言葉を、私たち大人はつい口にしがちです。しかし、その一言がお子さんの中で、"好き"を「くだらないもの」に変えてしまうのです。「くだらない」とラベルを貼られた"好き"は、志望理由書の材料にはなりません。子ども自身が、それを掘り下げる価値を感じられなくなってしまうからです。

 推薦入試の準備は、実績集めから始まるのではありません。お子さんが「これが好き」と口にしたとき、それを面白がって聞いてあげる家庭の空気から始まるのです。バレエでも、ヒップホップでも、野球でも、山でも、アイドルでも、鉄道でも、駄菓子でも――どんな"好き"でも、掘り下げれば必ず学問と繋がる糸口が見つかります。

シリーズの終わりに

 このシリーズでは、10回にわたって、推薦入試の基本構造から具体的な準備の方法までをお伝えしてきました。改めて振り返ると、伝えたかったことは、実はとてもシンプルです。

 推薦入試は、"派手な実績を持つ特別な子"のための入試ではありません。自分の関心を掘り下げ、社会と学問に繋ぎ、志望学部と一本の線で結び直す――この作業に、正直に向き合った子が受かる入試です。そしてこの作業は、家庭の食卓の会話や、お子さんが口にした何気ない"好き"の一言から、いつでも始めることができます。

 派手な経歴や高い評定平均がなくても、諦める必要はまったくありません。あなたのお子さんが、いま何気なく熱中していることの中に、志望理由書の一文目を支える種は、必ず眠っています。それを「くだらない」と決めつけないこと――これが、令和の推薦入試を戦い抜くための、最大の武器になります。

 このシリーズが、これから推薦入試に挑まれる受験生と、それを支える保護者の方の、小さな灯りになれば嬉しく思います。書籍『総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書』では、この連載で触れた内容を、さらに具体的な事例と実践的な方法論とともに、深く掘り下げています。ぜひ手に取ってみてください。

 連載にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

本記事でご紹介した書籍
総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書』(孫辰洋 著/中山芳一 監修/SBクリエイティブ)
Amazonで購入する