2025年9月20日、慶應義塾大学法学部のFIT入試(A方式)二次試験が実施された。
今年も全国から数多くの受験生が集まり、書類審査を突破した精鋭たちが論述試験と口頭試問に臨んだ。その出題内容は、単なる知識や暗記を超えて、「社会の最新トレンドをどう捉え、どう自分の言葉で表現できるか」を強く問うものだった。
実際どんな試験に受験生は臨んだのか?
受験生から提供を受けた問題をもとに、大学が求める具体的な能力を紐解いていく。
【FIT入試とは?】
慶應義塾大学法学部の「FIT入試」は、2006年に導入された総合型選抜(旧AO入試)だ。「Faculty of law Intensive Trial」の略で、大学と受験生の「良好な相性(fit)」を重視する入試制度として注目を集めている。
A方式(評定制限なし)とB方式(評定4.0以上)があり、従来の学力試験では測れない思考力や社会への関心、表現力を総合的に評価する。募集人員は計約160名で、法学部全体の約1割~2割を占める重要な入学ルートとなっている。
論述試験 ― 「多角的な調査方法」を問う
まず受験生を待ち受けたのは、講義形式を伴う論述試験である。試験冒頭、慶應の教員による約50分の模擬講義が行われ、テーマは「国際政治学で朝鮮半島情勢を読み解く」。朝鮮半島情勢はニュースや情報は多いといった前提知識や、対抗陣営のICBM(大陸間弾道ミサイル)の配備数、核抑止の構造といった具体例を通じて、「一つのデータや視点だけでは国際関係の実態は掴めない」という問題意識が提示された。
その講義をふまえて、受験生に与えられた課題は次の通りだ。
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つまり、単なる知識問題ではなく、「社会課題を設定し、自ら調査手法を選び、利点と限界を論じる力」が試されたのだ。
例えば「少子化と教育政策」を取り上げるなら、統計調査による出生率データの分析、教育現場での聞き取り調査、国際比較研究などを組み合わせる必要がある。統計は全体像を示す一方で個別の体験を拾えない。聞き取りは深い理解を得られるが偏りが生じやすい。こうした複数の手法を掛け合わせ、課題を立体的に捉えることが論述の鍵となった。
模擬講義のメッセージを的確に理解し、社会課題を自分の問題関心に即して論理的に展開できたかどうか。ここで差が大きくついたといえるだろう。
口頭試問 ― SNSと民主主義の現在地を問う
論述試験の後、受験生は15分間の口頭試問に臨んだ。今年度の聞かれたテーマの1つはこうだ。
(テーマは受験生2名より提供)

まさに現代の「トレンド」を直球で突いた出題。SNSが政治や民主主義に与える影響は、フェイクニュースの拡散、エコーチェンバーによる分断、アルゴリズムによる世論操作といった負の側面が議論される一方で、若者を中心に多様な意見や草の根の運動を可視化する積極的な面もある。
7月の参院選でもSNSは選挙活動に大きな影響力を発揮したといわれ、従来の政治運動の変化として話題になった。
受験生は冒頭でこの設問を投げかけられ、その後の回答を教授が随時深堀っていく形式で口頭試問は進む。回答を準備する時間もほとんどないなか、各国で規制等の対応が分かれる「SNSと選挙」問題について意見を求めるのは、さすが慶應の推薦入試といったところだとう。
オールドメディア(新聞・テレビ・ラジオ)が「編集部によるゲートキーピング」を通じて情報を取捨選択していたのに対し、SNSは誰もが発信者となり、権力批判や市民運動の呼びかけが即座に拡散する。香港の民主化運動、アメリカのBLM運動、日本における選挙啓発の動きなど、SNSが民主主義の実践を変えつつある事例は枚挙にいとまがない。
口頭試問で問われたのは、こうした「功罪両面」を理解したうえで、自分なりの評価軸を示せるかどうかだった。
単に「SNSは便利」と答えるのでは不十分で、「情報の即時性は民主主義に活力を与える一方、分断のリスクを高める」「旧来メディアが担ってきた検証機能を誰が補うのか」といった視点を持てるかが試されたのである。
浮かび上がったFIT入試の本質
今回の試験を振り返ると、慶應法学部がFIT入試を通じて求めているのは、単なる“優等生的な知識”ではないことがよく分かる。
論述試験では「多角的な調査」による問題発見力と分析力。
口頭試問では「SNSと民主主義」というホットなテーマを材料にした思考の柔軟性。
これらはいずれも、教科書や予備校テキストには載っていない。時代の動きを自分なりに掴み、そこから論理を構築する力が評価されているのだ。
「トレンドを追う」推薦入試へ
FIT入試の最新動向から見えてくるのは、推薦・総合型選抜が「トレンドを追う」試験へとシフトしている現実だ。
従来型の入試が知識の正確さを測るものだったのに対し、FITは「今この瞬間、社会で何が問題になっているか」「その問題を自分はどう考えるか」という“時代性”を重視する。だからこそ2025年の口頭試問で、まさに現在進行形のテーマであるSNSと民主主義が出題された。
推薦入試を志す受験生は、日頃からニュースや社会の変化に目を向け、自分の言葉で語れるテーマを持つことが欠かせない。
これは単に「受験対策」という枠を超え、社会に主体的に関わる姿勢そのものを育てる営みだ。





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