未来図代表の孫辰洋が、このたび新刊『総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書』(SBクリエイティブ、監修:中山芳一)を刊行しました。合格者5000人分のデータ分析に基づき、総合型選抜・学校推薦型選抜の全体像から具体的な対策までを網羅した一冊です。今回はその内容を抜粋しながら、シリーズで大学入試の「いま」をお伝えしていきたいと思います。

書籍情報

  • 書名:総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書
  • 著者:孫辰洋(監修:中山芳一)
  • 出版社:SBクリエイティブ(2026年7月31日刊)
  • 価格:単行本 1,540円〜/Kindle版 1,870円〜
  • ISBN-13:978-4815644024
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 前回の記事では、「まずは志望理由書を書いてみることで、自分に足りないものが見えてくる」というお話をしました。そして、多くの受験生が最初にぶつかる壁が、「自分のことが、自分でよく分からない」という壁です。今回は、その壁を突破するために私たちが受験生に取り組んでもらっている、具体的な手法をお伝えします。

 まずは、こちらの漫画をご覧ください。

「自分がわからない」という、あの独特な混乱

 漫画の冒頭でもある通り、受験生たちは毎回、自分のことがわからないという壁にぶち当たります。「自分の強み……?」「なんで私、この大学行きたいんだろう……」「そもそも俺ってこれが本当に好きなのか?」――多くの自己分析に取り組み始めた受験生に訪れる瞬間です。

 面白いことに、この混乱は「自分のことを考えていない生徒」に起きるのではなく、むしろ「真剣に自分のことを考え始めた生徒」に起きます。これまで漠然と持っていた「自分はこういう人間だ」というイメージが、いざ志望理由書に書き出そうとした瞬間に、驚くほど脆いことに気づいてしまう。強みを聞かれても、その根拠が言えない。志望動機を書き始めても、なぜそこに惹かれているのかが説明できない。好きだと思っていたものが、本当に自分の切実な関心なのか、急に自信がなくなる。

 これは、決して悪いことではありません。むしろ、これまで曖昧なまま済ませていた「自分」というものに、初めて真剣な光を当てた証拠です。しかし、光を当てたからといって、すぐに輪郭が見えるわけではありません。ここで多くの受験生が立ち往生してしまうのです。

「考える」だけでは、自分は見えてこない

 自己分析でつまずいたときに、ほとんどの受験生がやってしまう対処法があります。それは、「じっくり考える」というものです。カフェに座って、あるいはベッドに寝転がって、「自分の強みは何だろう」「なぜ自分はこの学部が好きなのだろう」と、頭の中でぐるぐる考え続けてしまう。

 しかし、この方法では、多くの場合、答えは出てきません。なぜなら、人間は「漠然とした問い」に対しては、漠然とした答えしか出せない生き物だからです。「自分の強みは?」という広い問いを頭の中で転がしていても、思考は同じところをぐるぐる回るだけで、輪郭を持たないまま時間だけが過ぎていきます。

 必要なのは、じっくり考えることではありません。具体的な問いを、大量に、自分自身に投げかけていくことです。ここで登場するのが、自分達が受験生に取り組んでもらっている「100問100答」という手法です。

「100問100答」とは何か

 「100問100答」というと、まるで難行のように聞こえるかもしれませんが、やることはシンプルです。自分自身に対する質問を100個並べ、それに一つずつ答えていく――ただそれだけの取り組みです。

 質問の例を、いくつか挙げてみましょう。「これまでの人生で、一番泣いたのはいつですか」「一番怒りを感じた出来事は何ですか」「小学生の頃、放課後に何をして遊んでいましたか」「これまで読んだ本で、最も印象に残っている一冊は何ですか」「その本のどの場面が、なぜ心に残っていますか」「10年後の自分は、どこで、誰と、何をしていてほしいですか」「その未来像のうち、一番譲れないのはどの部分ですか」「もし明日から一年間、何をしても許されるとしたら、何をしますか」――こうした質問を、100個並べて、一つひとつに答えていくのです。

 大切なのは、質問の粒度を、意識的に細かくすることです。「あなたの強みは?」という抽象的な問いには、なかなか答えられません。しかし、「これまで人から褒められて、一番嬉しかった一言は?」という具体的な問いには、多くの人がすぐに答えられます。そして、その答えを100個並べてみたときに、初めて自分の輪郭が浮かび上がってくるのです。

なぜ「100」という数が効くのか

 「10問10答」でも「30問30答」でもなく、「100問100答」であることには、実は明確な理由があります。

 人間は、最初の10問くらいまでは、"表向きの自分"を答えます。「頑張り屋です」「人と話すのが好きです」「本を読むのが趣味です」――こうした、誰にでも通用する、少し飾った自己像が並びます。しかし、質問が30を超え、50を超え、60を超えていくと、この"表向きの答え"のストックが尽きてきます。ここからが本番です。

 答えに詰まりながら、自分の記憶の奥に手を伸ばしていく中で、これまで意識してこなかった小さな出来事が出てきます。「そういえば、小学校3年生のとき、あの子にああ言われたのがずっと引っかかっている」「あのとき自分がやたら悔しかったのは、実はこういう理由だったのかもしれない」――こういう、少し切実で、少し個人的な答えが、後半になるほど出てくるようになるのです。

 そして、この後半に出てきた答えの中に、志望理由書の核になる素材が眠っていることが、圧倒的に多いのです。100問100答は、"表向きの自分"を掘り抜いて、"本当の自分"に触れるための、時間をかけた儀式のような作業なのです。

100問100答をやり切ったあとに、起きること

 実際に100問100答に取り組んだ受験生からは、決まってこんな声が返ってきます。

「自分がなぜあの経験をずっと覚えていたのか、初めて言葉にできました」
「好きだと思っていたものが、実は"憧れ"だったんだと気づきました」
「志望学部の選び方が、根本から変わりそうです」

 面白いのは、100問100答に取り組んだ後の受験生は、志望理由書の書きぶりが明確に変わるということです。それまで抽象的な言葉で埋めていた文章に、具体的なエピソードが差し込まれるようになる。「なぜ」の連鎖が、二段、三段と深まっていく。面接で少し突っ込まれても、自分の言葉で答えられるようになる。

 これは、質問を通して、自分自身と対話する時間を確保したからです。自己分析とは、頭の中で考えることではなく、質問と答えを繰り返す対話の時間である――これが、100問100答という手法が私たちに教えてくれる、大切な教訓です。

保護者の方へ ― 「一緒に聞いてあげる」という関わり方

 100問100答は、一人で紙に向かって書いていくのが基本ですが、実は、保護者の方が「聞き役」を担うと、驚くほど深まるケースもあります。

 質問を、お子さんに投げかけてあげてください。答えを聞いても、評価も助言もしないで、ただ「そうなんだ」と受け止めてあげてください。「なぜそう思ったの?」と、静かに一歩だけ掘り下げてあげてください。子どもは、親の前だからこそ、自分の弱さや切実さを言葉にできることがあります。この時間は、志望理由書の準備であると同時に、親子で改めてお互いを知り直す時間にもなります。

 自分を掘り下げる時間は、決して受験のためだけの時間ではありません。その子が、これから何十年もの人生を、自分の言葉で歩いていくための土台を作る時間でもあるのです。

次回:ニュースや社会問題への関心を、どう育てるか

 次回は、3つの過程のうちの二つ目、「社会読解」についてお伝えします。「最近関心を寄せているニュースは何ですか」――この面接での定番の質問に答えられない受験生が、実は非常に多いのです。日々のニュースや社会の動きに、どうすれば主体的に関わっていけるのか。具体的な方法を、次回お届けします。どうぞ、続きをお楽しみに。

本記事でご紹介した書籍
総合型選抜・学校推薦型選抜の新しい教科書』(孫辰洋 著/中山芳一 監修/SBクリエイティブ)
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次回:【推薦入試の基本⑦】「最近気になっているニュースは?」に答えられない受験生 ― 社会読解を鍛える、日々の習慣の作り方